2006年度耐震設計学 講義テキストダウンロードサイト

講義で使用したテキストダウンロードサイトの参考画面です。
ただし、テキストのダウンロードは終了しました。
2006年度は学生から多くの質問が出てきました。代表的なものをそれぞれの講義に合わせてアップしてありますので、参考にしてください。

耐震設計学(3年次後期:建築・デザイン工学科(ADa)の学生を対象)のお知らせサイトです。
講義テキストの配布の他、休講のお知らせなどを、このサイトを使って行いますので、逐次チェックのこと。

ダウンロードしたテキストは講義で使用するので、各人印刷し持参すること。
講義用テキストは1週間でアップを中止するので、注意のこと。
授業はシラバスの授業計画を基本に進めていきますが、学生の理解度に合わせ、適宜変更します。


●配付資料一覧


■第1回 リスクマネジメントと地震災害管理
わが国は地震国(Earthquake-prone country)です。地震に打ち勝つには、
敵の強さ(Hazard)と己の弱さ(Vulnerability)を知って、備える(Protection)ことです。
敵の強さと己の弱さを地震工学(Earthquake Engineering)から学び、備えを地震防災計画学(Earthquake Protection Planning)に学びます。
よって本講義で対象とする「構造」は、建物構造(Building Structure)に限定しません。人を含めた国を構成する全ての要素(Urban Structure)を対象とします。
以下のファイルをダウンロードし、各自印刷して講義に持参のこと。
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Q1:阪神淡路大震災の時の面積あたりや時間あたりの死亡者数は、他の地震や災害に比べて高かったのか?
A1:面積あたりの死亡率を問われたのは初めてです。面白い質問ですね。一般に、地震の場合、揺れの大きさに対して死亡率を算定しています。具体的には、国レベルで見たときはマグニチュードと死者数(あるいは死者率)の関係を調べます。日本のように、揺れの大きさが震度で詳細に調べられているような地域においては、震度と死者数(死者率)との関係が調べられることもあります。死者の発生は揺れの大きさだけで決まるわけではありませんが、マクロに見た場合は死者を決定づける第一主要因となります。そう考えると、揺れの大きさは、マグニチュードと震源距離、それに地盤の軟弱さで決まりますので、揺れが大きい(たとえば震度6以上)面積はほぼ一定とみなすことができます。あくまでマクロに見た場合ですが、面積あたりの死者率は一定と考えることができます。地域によって人口密度は大きく異なるので、死者数は当然変わってきますね。では、ミクロに見た場合はどうなのでしょう。実は、これが大きな問題です。国力の差が大きく出てきます。答えは次回の講義(災害の性格)に大きく関わってきますので、そちらで説明しましょう。
時間あたりの死亡率。これは時間あたりの救命率と捉えると、同様の問題が指摘できるわけです。


Q2:被害の連鎖とはどういうことか?
A2:ある一つの被害発生が別種の被害発生の原因となり、次々と被害が多様化していくこと。チェーン・リアクション


Q3:防災では、トレードオフはどの位置をとったらいいのか?
A3:防災とトレードオフとの関係にあるものとのバランスを聞いている質問だと理解して良いですか。この質問は価値観を尋ねているのと等価です。一人一人違った価値観(価値に対するスタンス)をもっているはずですので、ただ一つの解(ユニーク・ソリューション)はないと思います。それぞれのスタンスに対して選択肢を用意するのが、工学の仕事だと思います。


Q4:質問ではないのだが、リスクをどこまで許容できるか、難しい問題だと思った。
A4:そのとおりです。一人の人間でも歳を経たり、経験を積むことで考え方はどんどん変わってくるものです。難しい問題を一般化し、そこから幸せを探していくのが研究者の仕事だと思っています。


Q5:個々の建築を考えるのと、都市スケールで考えるときの設計段階での違いを知りたい。
A5:私の講義を通してそれを学んで下さい。第11回(耐震設計と人的問題)がその主要テーマになるはずです。


皆さん、頑張って受講して下さい。



■第2回 災害の性格
災害を少し一般化してお話しします。災害の本質とは何か、それをつかんだとき、対策のポリシーが見えてくるはずです。
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ちょっと間が空いてしまいました。私は学会シーズンなのですが、皆さんはどう過ごしていますか。
いくつかの質問に答えておきます。質問の質が上がりました。まだまだ面白い質問がありましたが、質問者には回答をつけて返却します。


Q1:災害の局地性と多発性について質問。規模が大きければ大きいほど被害が集中するようなことはあるか?台風だと愛知県の名古屋という場所限定になっているような気がするが。
A1:指摘は正しいです。Risk=Hazard×Vulnerability の式を思い出して下さい。被害の規模は大きな入力(Hazard)と弱い耐震害性(Vulnerability)が重なったところに発生します。


Q2:災害の偶然性と集中性について質問。集中する理由に材料の劣化など、偶然と言うより必然的な要素の話があった。単なる偶然という例はないのか。
A2:ここで言う偶然性とは、発生確率が低いにもかかわらず発生する事象のことを意味しています。最近は、「低頻度」と言う言葉で言われています。災害発生はいつも必然です。原因は必ず存在します。


Q3:国別の死者数-被害額のグラフで、比較している国々で地震の規模の違いはどの程度あるのか。地震の規模によって死者数・被害額は変わると思うのだが。
A3:そのとおりです。入力規模により死者数や被害額は大きく変わります。示したグラフは入力と風土(災害を受け入れる一種のレシーバーです)を国の性格と位置づけ、被害(出力)の観点から国を性格付けしてみたものです。色々なことが類推できるでしょう。思いついたことを上げてみて下さい。


Q4:日本は地震に弱い上位の国にあるが、材料や構法では世界的に見ても問題ないと思われる。地震入力が大きいのが原因なのか。
A4:地震入力が大きいことも一因ですが、都市防災に問題があると思います。材料や構法は建築防災の話であり、これがクリアされても、過度な集中を許容し安全の格差を是正しない都市計画が被害を増大させている面は大きいと思います


Q5:安全の観点から構法や材料が均一化し、地域性が薄くなっていくことは良いことなのか
A5:そうは思いません 。質問者もそうは思っていないでしょう。安全は基本であり最優先事項であるけれど、その安全が文化を壊してしまっては笑えない話ですね。



■第3回 地震の基礎
地震のことなど今更と思うかもしれませんが、初めて聞いたという話も必ずあるはずです。どのような形であれ日本で仕事をする以上は、防災に関わらざるを得ません。基礎中の基礎だけは押さえておきましょう。特に、スケールの話は重要です。
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Q1:Nowcastの情報が先生の研究室に流されたことはあるのか。
A1:今回は、この質問が多かったですね。Nowcastが試験運用を開始してまだ日が浅くあまり大きな地震は捉えていません。2003年の中越地震はうまく同報したようですが、このときは私の研究室にはまだシステムが導入されていませんでした。それ以降大きな地震は起こっていません。それでも時々、震度0の揺れがやってきますという、情報は流れてきています。そういうことなので、まだNowcastの効果は実感していません。私は、このシステムをパソコンに入れて持ち歩いています。興味がある人は、一度見に来ると良いでしょう。


Q2:断層は、再びずれるという可能性はないのか。
A2:一度ずれると再びずれます。私も、肩を脱臼して依頼、何度も脱臼を繰り返しています。同じですね。ちなみに、脱臼のことを英語で   dislocationと言います。面白いことに、断層のズレのことをdislocationと言います。なお、私は手術をして脱臼を克服しました。断層も手術ができると良いのですが。


Q3:大地震が起こったとき、知る方法はないのか?
A3:大きな地震が起こったときは、地面が大きく揺れるので誰でも気が付くと思います。ぇえっ??


Q4:日本では様々な自然災害(地震、津波、暴風雨、洪水、竜巻等)があるが、どれを重視して建物を設計するのがよいのか。地域によって違いはあると思うが、その考慮のポイントは何か。
A4:この質問は、本講義前半部分のハイライトに相当するものです。重要な質問ですので、次回の話題で触れます。



■第4回 確率論的地震動予測
いよいよ大学生レベルの話になります。建物への入力の考え方についてシッカリと学んで下さい。
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Q1:マグニチュードは地域によって最大が決まっていることを初めて知った。地震は自然現象なのに、色々なことが分かってきていて研究している人は凄いと思った(やけ)。
A1:あなたも凄い人になって下さい。期待しています。


Q2:建物設計用の層剪断力係数が地域によって変わるのが面白いと思った(うか)。
A2:地域による違い・建物による違い・・・・、違いを論じるのが設計の醍醐味とも言えましょう。全て同じならば設計者は必要ないですね。講義を含め、なにごとも面白いと思うことが大切です。次回もおもしろさを見つけてください。


Q3:確定論的手法によってハザードを予測することで細かい想定をすることができるのなら、様々なパターンを確定論的手法で想定すればいいと思うのだが。確定論的手法は手間や費用などの点でデメリットがあるのか(くた)。
A3:そのとおりです。確定論的手法を全ての想定地震に対して実施し、それを基に対策を立てることができるのなら、それに越したことがないわけですが、いくつか問題があります。まず、将来起こる被害地震を全て正確に予想することができないことです。次回の話となりますが、確定論的地震動予測には、想定すべき多くのパラメータが必要となります。それを正しく評価することは不可能です。ある程度のばらつきを考慮していくつか想定するわけですが、当然ケースが増え、費用もかかります。



■第5回 確定論的地震動予測
前回は途中で時間切れとなりましたので、再度、確率論的地震動予測から説明をします。今回は特別プレゼントとして、自習書(質問・解答付き)を講義参加者のみに配布します。
PDF

前回も積み残してしまいましたので、確定論的地震動予測の続きを講義します。関連の論文を読んでもらいますので以下をダウンロードしておいてください。
PDF(岡田・戸松2000)

今回は、技術的質問が多かったので、少し丁寧に解説しておきます。講義でも補足する予定です。多少長めの文章ですが、めげずに最後まで目を通しておくこと。


Q1:アメリカより日本の方が地震対策が進んでいるという話しのようだが、対策は個々の国がやっているのですか(やか)。
Q2:日本では地盤と断層の両方を研究するようになったということでしたが、アメリカでも両方研究するようになったのですか(いみ)
A1・2:共に対策と研究レベルの質問ですね。対策は基本的に国の問題です。災害は地域の特質に極めて大きく左右され、そして対策も地域の特性を生かしてその国で対策の意思決定をすべきだと私は思います。如何に勝れた防災技術を持っていても、それを他国に押しつけるのは、その国の文化の崩壊につながることもあり得るからです。各国が持つ独自の建築様式や住風習を尊重し、その範疇で技術移転をしていくことが、防災立国であるわが国の使命でしょう。私も、ODAの一環で、トルコに毎年1ヶ月間、7年ほど、派遣されていた時期があります。
 そこで日米のレベル比較ですが、地震工学の研究レベルでみると現在は日本の方が進んでいると思います。アメリカも断層理論だけではなく、地盤問題も大きく扱うようになってきました。問題は対策です。アメリカは、歴史的に、良いと分かったことはどんどん対策として実践する行政的パワーを持っています。古くは1930年代の強震計の配置に始まり、1980年代のサン・アンドレアス断層のシナリオ被害想定、国家規模のハザードマップ公開、住宅耐震化を含むコミュニティベース対策(プロジェクト・インパクト)、断層法等々、日本の研究者達が先に提案していても実行はなぜかアメリカから始まる。日本は実践段階で、利害関係者(ステークホルダー)の調整に時間がかかりすぎる嫌いがあります。


Q3:震源で発生する波(P波とS波)のあたりがよく理解できなかった(やあ)。
Q4:P波とS波の放射形が震源に近いほど影響すると言われましたが、近いって距離的にはどれくらいのものなんでしょうか(かゆ)。
Q5:縦揺れと横揺れ、建物の被害はどう変わるのでしょうか(たゆ)。
Q6:縦揺れと横揺れは、日本にいて感じる地震はどちらが多いなど片寄りはありますか(さゆ)。
Q7:高層ビルを建てるとき、地震の周波数と建材の周波数を合わせるかずらすかして被害を押さえるといったことを聞いたことがありますが、それは表面波に対してのことなのですか(あの)。
A3~7:今回は、地震波の種類に関する質問が多かったですね。これまでの建築構造の講義では、波の種類についてはあまり問題視されなかったかもしれませんが、防災上は非常に重要です。地盤構成で増幅される波の種類が異なります。
 S波は別名、剪断波と呼ばれています。断層のズレの動きに平行に射出される波で、媒質の摩擦で伝達していきます。摩擦のない液体中は伝達しません。講義で示した波の放射パターンは3次元座標系(デカルト座標系)で表されていますが、断層の動きの直交方向に波は伝達していきます。断層には見かけ上、2対(ダブルカップル)の力が働いていますので、もう一方の力により、断層の移動方向にも剪断波が射出されます。これが震源近傍における波の放射パターン(ラディエーションパターン)です。近傍というのは、相対的なものですが、断層の大きさに対して震源距離が同程度なら震源近傍(近距離)とみなして良いと思います。
 次に、震源距離が遠くなるとラディエーションパターンも崩れ、実体波(P波とS波)はあらゆる方向に伝播していきます。そのとき、震源と観測点(自分)との位置関係を極座標系で考えると、両者を結ぶベクトルが自分に向かってくる波の伝播方向を示しています。S波は剪断波ですのでベクトルに直行方向に振動しています。地表などの境界面があれば、直行方向は2とおりあり、境界面に平行な揺れ(横揺れ)と、境界面に垂直な揺れ(縦揺れ)があります。前者をSH波、後者をSV波と呼びます。
 震源から射出されるもう一つの波、P波は別名、疎密波と呼ばれています。震源に働くダブルカップルの力の合力として押し引きの波で表されるものです。疎密波は媒質の弾性的性質で伝播していきますので、水の中でも伝播します。震源距離が遠くなると、媒質の境界面の剛性の違いにより入射角度に対し、射出角度が小さくなり、観測点にはほぼ鉛直方向(真下)からやってきます。真下から疎密で振動するわけですから、これは上下方向に揺れ、縦揺れとなります。
 もう一つの波、表面波は、SV波とP波から派生するレイリー波と、SH波からの派生するラブ波があります。それぞれの派生源の特徴から分かるとおり、レイリー波は縦揺れが卓越し、ラブ波は横揺れが卓越します。
 さて、縦揺れと横揺れの違いが被害にどう影響するかですが、構造物は自重をもっていますので自立させるにはその重さに堪える設計がなされなければなりません。従って、元々構造物は少なくとも重力(1G)に堪える設計がなされているわけです。縦揺れには抵抗する力を持っていると言えるのはそのことです。しかし、構造物も縦方向の引っ張りにはあまり配慮してはいないでしょうし、縦揺れも想定以上の入力になると問題が出てきます。また、室内の調度品は、縦揺れで空中に放り投げられます。
 縦揺れと横揺れはどちらが多いかという質問ですが、どちらが卓越する地震がより多く発生しますかという質問と解釈します。今までの説明で分かるとおり、地震が起こったらどちらの揺れもやってきます。どちらの揺れが大きいかは震源と観測点との位置関係・断層の破壊方向や地盤状態に大きく左右されますので、一概には言えません。どちらの揺れにも十分に堪える設計が大切ですね。
 地震の周波数と建物の固有周期が一致してしまうと共振現象を起こし、大変なことになります。共振現象は揺れの周波数の問題で、波の種類とは関係がありません。表面波が怖いのは、波の持つエネルギーがなかなか減衰しないため大きな破壊力を持っているということです。


Q8:石本-飯田の式によって河角マップが出来上がり、とても簡単にそれぞれの地方の地震の状態が分かるのは分かったが、たとえば、今まで観測されていない場所などデータに不備があるようなことはないのでしょうか(くた)。
A8:良い質問です。人間の歴史は浅いので、観測されていない場所は至る所にあると思った方が良いと私は思います。確率的な方法はある傾向を把握しているはずですが、それが全てではありません。さらにこれを使う場合、色々な仮定があることを十分に理解しておかねばなりません。講義の時に説明したエルゴード性もその一つです。大切なのは、観測事実は一つの事実で証拠として非常に強固なデータとなるのですが、あくまでも一つの事実に過ぎないということだと思います。観測されていないことにも配慮する。これはこれまで蓄積してきた人間の知識からの洞察力、それに加えて想像力が要求されます。研究者にとり、また、これから様々な場で活動していく社会人にとり、そしてこれからを生き抜かねばならない人間個人にとっても、豊かな想像力が強く求められているのだと思います。


2006年12月11日
宿題です。次回までにレポートを準備してください。
内閣府中央防災会議から中部圏に影響する内陸直下地震の震度分布が公開されました。
http://www.bousai.go.jp/
【平成18年12月7日公表】中央防災会議「東南海、南海地震等に関する専門調査会第26回)
 ↑ここにあります。
同様のものは、文部科学省地震調査研究推進本部(推本)から2005年に発表されています。
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/06_yosokuchizu/index.htm
【分冊2:震源断層を特定した地震動予測地図の説明】
 ↑ここにあります。
両者の違いについて、レポートを提出してください。

2006年12月12日
※急な宿題でびっくりしたようですね。中央防災会議からの公開も、急なことで私もびっくりしました。国の機関からなぜこんな二重情報が流れたのか、こぼれ話を交えて紹介しようと思ったのですが、ただ話を聞いているだけでは面白くないでしょう。少しは考えてもらおうかと思ったわけです。急なことなので対応できないのならば仕方がありませんね。提出できる人は明日提出してください。できない人は、お正月の宿題としましょう。


Q1:点震源と線震源・面震源の使い分けがよく分かりません(そゆ、いみ)。
A1:一番都合の良いものを使えばよいのです。都合がよいというのは、使う側の境界条件・判断基準で異なるものです。ある人にとっては、関連するデータがたくさんあるのでこのデータを使って精度を上げて欲しいということが条件となるかもしれません。ある人にとっては、予算内で計算結果を出して欲しいということが条件となっているかもしれません。使う目的によっても異なります。要は、当初想定の条件を逸脱しない使い方をしなければいけないということです。条件提示をしなかったり、提示された条件を忘れてしまって、これが唯一無二のものだという考え方に陥ることだけは避けたいものです。行政の対応としてよく見られますが、一度算定したもの(モデル化したもの)が、それ以後の対応基準を全て拘束してしまうというのは、モデル化(算定)の際の基本を忘れているのだと思います。



■第6回 地盤の増幅特性とサイスミック・ゾーニング
地震工学のもう一つの山場です。地盤増幅問題。日本のお家芸でもあります。さくっと理解ができればいいのですが。
ここを過ぎれば、楽になります。がんばりましょう。自習書を下にアップしておきます。
PDF

次回(2006年12月20日)は、建築・デザイン工学科の卒論発表会ですので、休講とします。

2006年12月26日
Q1:被害予測がパラメータによってこんなにも変わることに驚きました。よほど正確に出すことができないと発表したときに混乱を起こしかねないですね(やま)。
A1:正確さだけが情報の価値ではありません。どの程度の曖昧さをもった緊急的情報なのか、情報の受け手側にも情報リテラシーが求められている時代です。


Q2:被害についての話にとても興味があるので次回が楽しみです(とあ)。
A2:なかなか被害に入っていけなくて、じれったい思いをされている学生も多いのですね。もう少し待ってください。まず原因(地震のメカニズム)を理解しておかないと、被害対策につながっていかないのです。
 被害を防ぐことが防災ですが、全てがHappyになれることは世の中あまり多くはありません。防災の理念としては全てのHappyを求めることは間違いではないのですが、施策としての防災は必ずしも、全てHappyと言うわけにはいかない面が多々あります。ある制約条件の中でしか施策は行えないからです。制約条件・境界条件の中で何を選択していくか、これがその人の防災哲学であり戦略です。それを考える道標を講義で提供する予定です。


Q3:「液状化」と言う言葉は聞いたことがあったけれど、どういうことなのかよく分からなかったので今回の授業で何となく分かりました(やけ)
A3:何となくですか。すっきり分かって欲しかったです。なるほどという感覚(これを、Aha!体験・・・なんて言う学者もいますが)、これが学問や研究の原動力となるのです。


Q4:アスペリティモデルの一つ一つのグリッドの大きさは決まっているのですか(いみ)。
A4:マグニチュードの大小によって、断層面を何分割したらよいか(グリッドの大きさ)というスケーリング則が提案されています


Q5:何かテキストが欲しいのですが(おえ)。
A5:講義第1回目に参考図書を紹介したのですが。初歩的なところで、小野徹郎編:地震と建築防災工学(理工図書)があります。そこには、防災論・防災哲学が語られていないので、講義ではそこに力を入れているつもりです。私の「つぶやき」に耳をそばだてていると、聞こえてきます。因みに、私のホームページに「学生のための読書案内」のコーナーがあるのですが、立ち寄ってみましたか?ある意味、参考になると思うのですが・・・。


Q6:地面が水のような挙動を示すのが液状化ということだったが、地震は波として伝わるから、全部液状化しているのではと思った(さま)。
A6:波というと水面に波立つ波面をイメージするからでしょうか。剛体、たとえば、鉄の棒をたたくと音が伝わるでしょう。鉄の中を音波(粗密波:P波)が伝わるからです。


今年はこれで終わりです。年明け(2007年1月10日)に、レポートを提出してください。


2007年1月16日
Q1:東濃地域の方が東京より地盤状態が良いということと、首都圏移転候補地に東濃地域が上げられていることとは関係があるのでしょうか(ひみ)。
A1:良いところに気が付きましたね。そのとおり、関係があります。地震に強い場所というのは、首都圏候補の条件の一つです。但し、地盤が強い(硬い基盤が浅いところ上がってきている)と言うことは、核廃棄物処理の条件でもあります。東濃地域は、その候補地でもあります。


Q2:軟弱地盤に建物を建てる時には、地震の揺れに対する対策としてどのような対策があるのでしょうか(いみ)。
A2:建物から見た対策は、基本的に2つです。第4回講義資料(確率論的地震動予測)を見て下さい。
耐震設計の理論として、弾性範囲においては{建物の変形=荷重/剛性}であり、非線形範囲においては{変形≒エネルギー/降伏点耐力}でしたね。共に、建物の変形を減らすには、1)建物を長周期化するか、2)剛性を上げるか、です。長周期化するときの注意点は、建物の固有周期と地盤の卓越周期を一致させないこと(共振させないこと)であり、そのために、表層地盤の卓越周期を調査する必要があります。また、建物の剛性を上げるためには、建物基礎や建物躯体を強化する(耐震化)する必要があります。さらに最近は、入力エネルギーを建物本体に入らないように、免震構造や制振構造を採用するケースも増えてきました。


Q3:地盤を強化する対策はないのでしょうか(やな、おえ、ひと)。
A3:地盤改良といいます。地盤に密着した人工構造物(たとえば、道路や橋梁)の場合に有効となります。以下にその他の対策も含めてまとめておきます。

(1)液状化対策
土木的対策(地盤の対策)
・前もって振動を与え土を締め固める:バイブロフローテーション工法
・前もって水抜きをする:サンドコンパクションパイル工法(吸水排水パイプを埋め、土地の水位を下げる)
・液状化しにくい土(粒径不揃い)と入れ替える
建築的対策(建造物の対策)
・中高層建物の基礎は支持層までのピア工法を施す。
・地下室を作る(鉄筋コンクリート3階までの建物)
・厚い鉄筋コンクリートのべた基礎採用。基礎と土台を緊結(木造住家)
・住宅・店舗をPFEハウスにする。

(2)地滑り・崖崩れ対策
危険地域を避ける
・地形・地質構造・植生・湧水から地滑りの危険区域を予測し、この地域を避けて建物・道路等を建設する。
・崖の下は崖の高さの2倍以上離して家屋を建設する。
地滑り土塊を除去する
・斜面の雛壇式の宅地造成は盛土ではなく切り土とする。
・斜面にシラス・軽石・スコリアが堆積する地域はこれらを取り除いた上で家屋・道路を建設する。
・家屋背後の斜面(傾斜30~40度)の2次堆積物は撤去する。
・植林は地形・地質をよく考えて行う。斜面の木は大きくなったら切る(風により揺れ、根元の地盤がゆるむ)
地滑り危険性のある土塊を安定させる
・地滑りの軸方向に対し直角になるよう杭を打ち込み、地滑りに対する抵抗を増大させる。
・斜面地表に被覆工や排水工を行い、地表水の地下への浸透を防ぐ。
・蛇紋岩・凝灰岩地域は風化・粘土化が進み、水を含むと20~30度の緩傾斜でも地滑りが発生する。排水・水抜きを良くし地盤改良する。
・地滑りの末端部分に抑え盛土をする。
・地滑り末端部の河川による浸食を防ぐ。


Q4:地盤状態が与える建物への影響は大きいことは理解できたが、震度にしてどの程度違うのでしょうか。また、地盤の調査は全国的に行われているのでしょうか。軟弱だと分かってもそこに建築していることが多々あります。調査結果を無視しているのでしょうか(たゆ、さま、やか)。
A4:地表層の地質(火山岩層、洪積層、沖積層)の違いでは、震度にして平均±0.5程度異なる実験式が提案されています(私も提案しています)。従って、距離的にあまり離れていない地点どうしでも、震度1程度差が出てくることはざらにあります。地震発生後、気象庁から計測震度が発表されますが、その値はあくまでもその地点の震度であることに注意しなければなりません。地域(たとえば、区域や市域)を代表した値ではないということです。表層地盤の違いが揺れの大きさに大きく影響することを忘れてはいけません。
 基盤調査が都市域の広がり(面情報)で全国的に行われているかというと、まだそこまではいっていません。大都市(名古屋も含まれます)では講義で説明したバイブロサイス法で基盤調査がなされています。多くの市町村は、ボーリングデータやN値測定などの点情報に留まっているのが現状です。
 軟弱な地盤でも、対策が取られていれば、ある程度地震に対して安心できると思います。特に高層ビルを建てる場合は耐震設計等で十分な検討が行われています。しかし、それでも人知を超えた地震力が作用するかも知れません。現状の知識でOKだからといっても、災害を完全に防げるわけではありません。次に何が起きるのか、これを常に考えて対策を先手で打っていく必要があります。それには研究者や実務家の想像力が鍵を握ります。


Q5:基盤が深いと杭は届きません。どうしたらいいのでしょうか(みく)
A5:実はわが家がそうです。杭にも色々あります。構造用教材(日本建築学会編)に掲載されていますので、調べてみて下さい。因みにわが家は摩擦杭(フリクションパイル)を採用しました。これは、基盤にまで届かなくても、地盤と杭との摩擦力で上部構造を支持します。住宅のように軽量な構造物には有効な方法です。


Q6:そろそろ試験が気になってきました。どのような形式で行われるのでしょうか(おゆ)。
A6:今までは、関連の知識と防災への考え方を問う既述形式でした。講義にちゃんと出席し、自分なりの考えを表現できれば、大丈夫です。



■第7回 火災の話
地震動の話が続いたので、ここらでちょっと気分を変えましょう。残り講義時間が少なくなってきたので、講義スケジュールを少し変えます。
防災には単体防災と集団防災がある話は第4回の講義の時にしたと思います。火災を例に、単体(建物防災)と集団(都市防災)の対策の違いを理解しましょう。本講義の狙いはもう一つあります。災害が発生したときの現場調査の重要性です。理屈だけでは、その理屈を思いこみ過ぎて、真の災害の原因を見逃してしまう恐れが大きいのです。現場を詳細に検証することの重要性を今回の火災事例と、次回の地震事例から学んで下さい。
なお、地震動の話は、学生からのレポートが提出し終わった時点で、もう一度振り返ります。ハザードマップ(地震動入力マップ)は、地震防災を考える上で、それだけ重要なことですので、シッカリと理解して下さい。
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2007年1月22日
今週の講義(1月24日)は3年生研修旅行のため休講です。
追加資料です。先週の出席者に渡したものと同じです。
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2007年1月31日
暦を確認して唖然です。講義時間数がもうありません。次回、地震被害の話をして、次々回は期末試験となります。肝心の対策編を残してしまいましたが、これまでの話の中で、断片的には触れてきました。地震学からの対策・地震工学からの対策・建築工学からの対策・建築計画からの対策・都市計画からの対策・防災行政の実践と個人を救うための家庭でのリスクマネジメントと、話は進む予定でしたが、これまでの話をこの枠組みで各人整理してみて下さい。これまでとは違った新しい防災の姿が見えてくるはずです。次回の地震被害の話の中でも、触れるつもりです。未消化だなと思う学生は、卒論で一緒にやってみませんか。研究室の先輩学生もお待ちしています。



■第8回 新潟県中越地震から見えてきた加害要因と抑制要因
タイトルどおりの話です。日本建築学会都市計画委員会・災害復旧復興小委員会主催の公開研究会で披露したお話です。地震動の特徴・家の構造的つくり・家の平面計画・家具レイアウト・災害時の行動、これらが中越地方という地域的特徴を露わにし、被害を拡大そして軽減しました。地震で傷つかないためのノウ・ハウが満載です。
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2007年2月12日
今回の講義で、防災のイメージが相当変わったのではないでしょうか。講義時間にはお話しできなかったことについての質問が多かったことから、それが感じられました。学生諸君の意識がそれだけ高くなったのだと、嬉しく思います。


Q1:地震で負傷するのに家具の配置だけではなく、家族構成も関わるとは難しい問題だと思った。30代の男性が女性よりも負傷率が高かったのが気になった(とあ、おえ、やま)。
A1:家族構成により行動パターンが縛られるという事実は、今まであまり指摘のなかったことです。これは、当研究室の被災現場の資料蓄積の成果と言えるものです。対策は、質問にあるように「難しい問題」ではありません。我々がそのような行動を縛られる環境下にあるのだ、ということをまず意識し理解することです。「安全空間」での状態保持にまさる安全行為はないのです。そのために家族間での取り決めを話し合うことです。どのようなことに注意して取り決めをするのが良いのか。ヒントは、私のホームページの中の「地震防災私論」にありますので、読んでください。
 30代男性が女性よりも負傷率が高かったことは、不思議ですね。普通は、女性の方が負傷率は高いのです。その原因は、地震の時の女性に課せられた役割が多いからです。ではこの地震(2003年十勝沖地震)では、どうして男性の方が負傷者は多かったのでしょうか。私は、地震の発生時間帯が関わっていると思っています。地震は未明午前4時50分頃に発生しました。多くの家庭では、まだ就寝中だったはずです。このとき、母親は子供を抱えるなどの保護行為に集中し、暗い中で動いたのは父親でした。もし、明るいときであったなら、今までの事例では、母親が動き回ったはずです。周囲の状況が全く掴めない中での情報収集は、本能的に男の役割と認識しているのかも知れません。その結果男性の負傷率が高くなったのでしょう。


Q2:中越地震では外因子による死者数よりも内因子による死者数が多いのは、今まで思っていたのと逆でした。避難所での衛生面が影響したことはないのでしょうか(たし、みひ)。
A2:建物が倒壊することによる、いわゆる直接死、のみならず、関連死の問題がクローズアップされたのは、阪神淡路大震災からです。それまでは関連死という区分は特にされなかったため、目立たなかったのでしょう。
 地震で避難所生活を余儀なくされることよる一番大きな問題は、なんだと思いますか?プライバシーがなくなると言うことです。十分な睡眠がとれなくなります。トイレも回数が減ります。そのために、給水を控えるなど、平常時の体力維持は難しくなります。避難所の衛生状態ももちろん関係していきますが、精神面そしてそれが体力面に与える影響が大きいと思います。


Q3:中越地震のばあい、地震が発生して9分後に、半数が外に避難できたことが意外という話を聞いて、驚いた。うちの家族の場合は、1分もかからない気がするのですが(やか)。
A3:意外という意味は、普通の地震ではこううまくはいかないだろうという意味です。普段なら1分かからなくても、地震の時はそううまくはいきません。家の中が散乱状態で、その中を踏み越えての脱出はエネルギー代謝量から換算すると、タンス一竿乗り越えるだけで2.5倍の負荷量になります。すなわち、タンス一竿が避難経路を2.5倍延長させることに相当するのです。
 中越地震ではさらに大きな余震が連続して発生していました。そのような中で住人がうまく避難できたのは、中廊下に代表されるこの地域特有の平面計画が一役買っていたわけです。安全な避難経路が家の真ん中に確保されていたこと、これが大きな正の要因だと思います。


Q4:中廊下というのは、平面計画をする上で今までムダな空間と位置づけてしまっていたが、今一度よく考えてみたい。住宅の強さが材料の強さだけではなく、平面計画(アスペクト比や避難経路)にも大きく左右されることを知り、地震を想定した設計は複雑だと感じた。建築物は地震の力を吸収しても、人が住めるだけの(空間的)耐久性も保持しなければならないと感じた(あの、やあ、おゆ)。
A4:これは質問というよりも、感想ですが、防災は構造だけではなく、計画的側面も重要であることを理解してくれたことは重要です。今後の設計に是非生かしてください。


Q5:中越地震では建物被害の割に人的被害が少なかったとのことですが、神戸での地震の時はどうだったのですか。建物の特徴が違うので被害の傾向も違ってくるのでしょうか(やけ、ひと)。
A5:災害は地域性です。第2回目の講義で「災害の性格」について、お話ししました。今回はその具体例と思ってください。災害を生み出す地域性とは独立の共通因子と地域特有の地域因子。半年間の本講義の一連の主題はこのことなのです。


最後に、「やき」さんのコメントを掲載します。他の学生からも同様の感想をたくさんもらいました。
 地域の気候にあわせた特性も地震被害に大きく関わっていて、考えるべきポイントが多いなと感じました。風土にあわせた建築物に、更に耐震を加えるとなると、一概に全国他の地域と比べられないだろうから、土地ごとに専門家を置くべきだろう。今、そのような人はどれくらい居て、その人数で対策は間に合っているのか。
 これまでの授業で、“地震”という1つの分野の中に様々な指標や視点、被害の原因や地域性など、多すぎる程の新知識を得られました。日本全国的に見ることや、一軒の家の中を考えることなど、色々な観点から防災を考えていかなければならないなと感じました。東海・東南海地震をひかえている今、私たちの意識をしっかり持って災害を抑えていかねばならないと思う(やき)。

次回(2007年2月14日)は、期末試験の予定でしたが、学生諸君の要望(多数決)により、期末試験は以下の課題レポートの提出に替えることとします。

課題レポート
【1】 以下の手順で、名古屋市の地域の違いを考察しなさい。
1.名古屋市のイメージマップを書きなさい。
2.地震危険度を自分なりに定義しなさい。講義中に定義した地震危険度(Seismic Risk)とはべつの、自分なりの危険度を定義すること。名古
  屋市にとって一番危ないと思う評価指標(または複合指標)を自分なりに考えてみなさい。
3.「2」で定義した地震危険度を名古屋市の各地域について、具体的に評価し、それを「1」のイメージマップ上に落とし、地域をゾーニング
  しなさい。
4.「3」の結果を見て、それぞれの地域の地震脆弱性を論じなさい。

【2】 本講義に望むこと・他、自由記述。
※提出期限:2007年2月23日(金)17:00
※提出場所:1号館310室前の靴箱の上にレポート提出箱を置いておきますので、その中に入れること。

参考までに、これまでの質問票・提出レポートによる獲得点数を以下に示します。出席が半分に満たないものは対象外です。
獲得点数は、課題レポートに加算されます。

(獲得点数表は削除しました。)

以上。


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