2007年度耐震設計学 講義テキストダウンロードサイト

2007年度版の講義テキストダウンロードサイトです。
但し、一部のファイルはダウンロードを禁止しています。
今年度は学生とのQ&Aが充実しています。

耐震設計学(3年次後期:建築・デザイン工学科(ADa)の学生を対象)のお知らせサイトです。
講義テキストの配布の他、休講のお知らせなどを、このサイトを使って行いますので、逐次チェックのこと。

ダウンロードしたテキストは講義で使用するので、各人印刷し持参すること。
授業はシラバスの授業計画を基本に進めていきますが、学生の理解度に合わせ、適宜変更します。


●配付資料一覧

■第0回 イントロダクション【2007年10月3日】
本講義の目標・履修して学べること・履修に必要な基礎理論・研究紹介・資料配付方法について説明します。


第1回 地震被害を知る【2007年10月10日】
日本は地震国とはいえ、地震被害を直接受けた人はそれほど多くはないでしょう。地震が発生するとどのような被害が生じるのかを、最近の地震被害例(2004年新潟県中越地震、2007年新潟県中越沖地震)から見てみましょう。被害は色々な分類方法があります。直接被害と間接被害。被害報道は写真に写る直接被害にスポットを浴びせがちですが、写真に写らない間接被害も忘れてはいけません。都市市街地被害と農山漁村集落被害。地域性が被害の様相を大きく特徴付けます。
以下のファイルをダウンロードし、各自印刷して講義に持参のこと。

PDF(地震被害事例 4.6Mb)


Q1:木造家屋が地震で倒れる様子を見せて頂きました。あのような事態になった後、木造の場合、建て替えではなく建て起こしという技術を用い元の家にまた住めるようになるということを僕は最近知ったのですが、先生はどう思われますか(ひけ)。
A1:建て起こしというのは詳しくは知りませんが、傾いた建物を元の位置にジャッキアップして戻し、出来るだけ元の材料を使って復元するということでしょうか。元の姿に戻すだけでは十分とは言えないでしょう。地震で壊れたわけですから耐震性は十分とは言えなかったわけです。元の姿に戻し、耐震補強をした結果、十分な耐震性を保持出来ているのであれば、問題なしと言えましょう。むしろ、ゼロエミッション(国連大学が提唱している廃棄物ゼロ構想)の考え方からするならば、地球環境に優しい政策と言えます。最近は、建て替え不要でも自治体の解体事業に乗っかり撤去建て替えをしてしまう家も多いのです。その結果、旧来の町並みが破壊されてしまうのは、大変に残念です。


Q2:東海大地震が来たら名工大は壊れるか気になりました(いか)。
A2:想定されている東海地震や東南海地震では名古屋は震度6弱程度の揺れです。この程度の揺れで、名工大が潰れてしまっては話になりません。ただし、構造躯体に問題がなくても、名工大はキャンパス対策(安否確認、避難、二次被害対策、周辺との防災協力、平時への移行等々)にかなり不十分な点があります。全体的な防災体制という観点から見ると劣っています。


Q3:RCや鉄骨のほうが強く、地震発生時に倒壊する建物の多くは木造住宅という結果が出ているにもかかわらず、なぜ、木造住宅を建て続けているのですか(かり)。
A3:いい質問です。あなたはそれを知っていて、将来どのような住宅に住みたいでしょう。回答は次々回(第3回)で。


Q4:地震発生の際、以前はすぐに火を消しに行くようにと教えられましたが、最近になって身の安全の確保を最優先するようにという話を聞きました。実際はどちらを優先すれば被害はおさえられるのでしょうか(もゆ)。
A4:場合によるというのが私の考え方です。火災発生を防ぐのは自分だけではなく、周囲への影響からも大切なことです。しかし、最近の調査研究(私の研究も含め)により、揺れている最中に火を消しにいこうとして大きな怪我を負うケースが非常に多いことが分かってきました。揺れていて自分自身の行動を制御出来ない状況下では無理に動いてはいけないのです。そのことから「身の安全の確保」を強調するようになってきました。しかし、近くに火元があったり、緊急地震速報で大きな揺れが来る前に消火出来る状況を作ることが出来るのなら、火を消すことを優先すべきだと思います。正しい状況判断が出来ることが大切です。


Q5:神戸の地震の時、テレビでしか様子を見なかったので、実際はどれほどなのかということに関心がある(もい)。
A5:被害に興味を持つことはいいことです。「どれほど」の状況だけではなく、「それはなぜ」の理由にも関心を持ってください。凄い!で終わってしまっては、悲劇を繰り返すだけです。対策は「なぜ」から始まるのです。



■第2回 災害管理論【2007年10月17日】
危険はどのように計ったらいいのだろうか。身の回りの気がつかない危険とインパクトの明確な危険との本質的な違いは何だろうか。数値で危険を比較し、そこから見えてくることと、見誤りがちなこととを理解し、災害への対処法の基本を学びましょう。そうすれば単位を落とすこともないでしょう。
pdf(安全と建築)
講義で説明しましたが、伝統構法と北方系住宅構法の違いを一覧比較した表を示しておきます。
pdf(構法比較)

 

Q1:オイルショックが原因で断熱材による構法の問題が1980年代の建物において浮上したわけですが、他にも社会的背景によって建築物に影響を及ぼした問題などはたくさんあるのでしょうか。それとも、このような問題は希なのですか(くあ)。
A1:希ではなく、ほとんどがそのようにして建築物及び業界に影響を与え、その後の方向性に影響を与えています。大きな災害を被り、はじめて建築に内在する問題点が明らかになること、そしてそれが基準法を始めとする法規の改正に繋がってきたこと。姉歯事件もその例です。


Q2:北海道の家の壁材に断熱材を入れるという話で、確かに快適性を挙げるためにはどんどん詰めていく行為は理解出来ますが、それをやることによって結露し、木が腐ってしまうということは腐る前に予想することは出来なかったのでしょうか(かり)。
A2:できなかったのでしょうね。結果(失敗)から学ぶというのが人間の自然の思考回路です。これをInversion(インバージョン;逆問題)と言います。自然な思考回路なのに逆問題とはこれ如何に。原因から結果を予想することを順問題と言います。数学モデル的にはこれが普通なのですが、人間の指向プロセスとしては、あることが将来的に何かまずいことの種になるかも知れないと予め察することは大変に難しいことですね。これができるのが、一流の研究者なのです。


Q3:僕の住んでいる地域は、大地震の際に液状化現象が起きると聞いたことがあります。液状化には、個人でできるような対策はないでしょうか(かみ
A3:まずは、液状化しない土地を選ぶことです。土地改良の方法はたくさんあります。昨年度のHP(2007年1月16日)を参考にして下さい。


Q4:名古屋で昔沼(池?)だった部分は今でも地盤が弱く地震の際危険だと聞いたんですが、吹上、川名あたりの地盤は大丈夫なんですか(よあ)。
A4:名古屋で危険な地区は、西区、中村区、中川区、港区ですね。講義で扱います。


Q5:利便性と安全性は技術発達によって反するものではなくなると思います(さか)。
A5:トレードオフの問題ですね。指摘のとおり技術発達で克服していって欲しいと思っています。もうひとつ、考えてもらいたいことがあります。例えば、今まで不便であったものに、新しい価値を認める価値観のパラダイムも重要だとは思いませんか。たとえば、かつては「暗さ」は犯罪の温床であり、恐怖の原点でもあったわけで、明るさを求める技術開発が進みました。しかし、最近は暗さに高質の快適さがあることに目覚め、むしろ質のよい暗さを求める建物が出現してきました。新たな価値観の創出も大切な研究テーマだと思います。


Q6:縁の話が出ていたが、それって何が耐震に関係あるのかが、よく分からなかった(のた)。
A6:縁は耐震というか、防災上、「役」を与える建築パーツです。たとえば、縁により非常に明確な避難路が確保されます。本来的役目以外にも思わぬところで「役」を与えるパーツはあるものです。それが、トレードオフを解決する一つのヒントになると思っています


Q7:最近では大地震が発生して、インドネシアなどでは多くの人が死亡したが、発展途上国と先進国とではどのくらいの地震による死亡リスクに違いがあるのですか(たあ)。
A7:重要な指摘です。次回の講義(災害の性格)で説明します。



■第3回 災害の性格【2007年10月24日】
災害はかなりのひねくれ者です。災害は忘れた頃にやってくる・災害は忘れないのにやってくる・災害は忘れたふりしてやってくる。いずれも災害の本質です。社会学でいう8:2の法則も災害学に当てはまります。前回の質問Q7にも答えましょう。
pdf(災害の性格)


Q1:地震は昔から起こるもので、一度起これば大変な被害が出ることが分かり切っているのに、なぜ人は、その土地にずっと住み続けようとしてきたのでしょうか(ひけ)。
A1:都市形成は色々な要因が関わってきます。最近は防災知識・技術も発達し、危険箇所を同定することが出来るようになりつつありますが、昔は難しかったということがあります。地名にその土地の特徴(災害脆弱性)を示唆する語句が入っているところもありますが。たとえば、東京でいえば、○○谷(渋谷)とか○○窪(荻窪)などはそうでしょう。しかし、災害の危険性以上に、そこに集落を作る必然性があったのでしょう。交通の要所であるとか、特産品を生産する条件が整っていたとか。Riskを避ける一番の方法は災害がやってこないところに定住することですが、そこに住まわざるを得ないのであれば、町を構成する構造物・システム・ネットワーク・人等々の耐災害性能を技術面から支えていくことですね。
Risk=Hazard×Vulnerability×Populationです。質問は、なぜ、Hazardが大きいところにPopulationするのか、という質問でした。対策はVulnerabilityにあり、ということです。

Q2:なぜ日本は、地震がこんなに多発していることを知りながら、地震に弱い国で世界第2位となってしまっているのか(かり)。
A2:Q1と似たような質問ですが、なぜ十分な対策がとられないのか(なぜ、Vulnerabilityが十分ではないのか)というその先の質問です。答えは、想定以上のHazardがやってきたため十分と思っていたVulnerability対策が機能しなかったからということなのだと思います。想定は過去の災害経験から為し得るものです。しかし、現代日本という国はそれ以上に変化が激しいのでしょう。そのために、想定されたHazardで想像される災害を超える災害が引き起こされてしまっている、ということなのだと思います。想定しなければならないのはHazardの大きさだけではありません。それによって発生し連鎖する新たな被害の「質」「種類」の問題にまで踏み込まねばならないのです。国や都市の構造が進化し、過去には発生しなかった新たな問題にいち早く気づくことが研究者として非常に重要なことなのです。環境問題と通じる面がありますね。



■第4回 地震の基礎【2007年10月31日】
地震発生のメカニズムを知ることは、地震学(理学)からの防災を考えることと等価です。これまでとは違う形式のファイルをアップしておきます。これで独学も可。テキスト(小野徹郎編:地震と建築防災)では第1章と第10章に相当しますが、そこに書いていないことにも、たくさん触れます。
pdf(地震の基礎2007年版)

Q1:緊急地震速報を授業の最後の方に流しましたが、一般の家庭だとテレビに地震の揺れが大きいと予想される地域が表示されるだけだと聞きました(くあ)。
今日、はじめて緊急地震速報を聞いたのですが、所感としてはやはりパニックを誘発させるだけはないかと思いました。実際、東南海地震が発生したときの有効性はどれぐらいあるとお考えですか(たこ)。
A1:緊急地震速報は、テレビやラジオでは当該地域の揺れの大きさしか放送しません。受信している場所が広域なため、揺れ始めの時間に地域差があるからです。特別な装置を持ち込むことで、揺れの時間まで知ることができるようになります。
いきなり放送が入ったらパニックを誘発するかも知れませんね。有効性はどのくらいあるかというのではなく、有効にするにはどうしたらよいかを考えることが大切です。


Q2:最近、東海で小さな地震が多発していますが、それは大きな地震を緩和するものではないかと思いますが、どうでしょうか(せし)
A2:今日の講義で地震のマグニチュードとエネルギーの関係式を説明しましたが、それを使って簡単な計算ができます。現在懸念されている東海・東南海連動地震のマグニチュードは8.7と言われています。小さな地震のマグニチュードを4.9としてみましょう。これは、2年程前に、北朝鮮が強行した核実験の規模に相当します。エネルギーで換算すると、北朝鮮の核実験を50万回行わないと、東海・東南海地震相当にはならないことが分かります。ついでに、これだけのエネルギーを東海地域で蓄積するとなると、何年かかるでしょうか。岡田のお薦めの式を使って計算してみてください。答えは、およそ300年です。ということは、この地域の内部では年間、約1,000発の北朝鮮の核を蓄え続けているのと同じことが起こっているということになります。地震エネルギーの大きさが実感できましたか。小さな地震を多発させてエネルギーを解放しようとしても、現実的でないことが理解できるでしょう。


Q3:地震のマグニチュードは主に変位を元に決められているということでしたが、建物にかかる力としては加速度の影響の方が大きいように感じるのですが、加速度を用いて判断する指標はありますか(もゆ)。
A3:地震の規模を判断する指標として加速度を用いるものがあるのか、という質問ですね。まず、建物にかかる力は加速度だけではなく、速度や変位で大きな力を受ける場合もあります。建物の固有周期と地震動の卓越周期との関係で決まってきますが、これについては、耐震設計の章で詳しくお話しする予定です。加速度を用いて地震の大きさを判断しないのかという質問ですが、一般にマグニチュードと呼ばれる地震の規模は、地震の大局的な動きから判断する規模のことをいいます。したがって、断層面の大きさや断層面が発生する時間、すなわち断層変位で規模を決めようと研究が進んできた経緯があります。しかし、近年、断層面の中の破壊形状により発生する短周期波の大きさが左右されるはず、というモデルが発表され、地震動(とくに短周期波の地震動)がうまく説明できるようになってきました。この短周期波は構造物の破壊に大きく影響するので、工学的にはむしろこちらを重要視する研究も進みつつあります。断層(地震)をモデル化する際のパラメータの一つとして、断層から射出される加速度に着目するモデル同定がされています。これなどは、加速度に着目した地震規模尺度の一つと言えなくもありません。確定論的地震動のところで触れる予定です。



■第5回 確率論的地震動【2007年11月7日】
構造物の設計荷重はどうやって決められているのか。これについてお話しします。テキストでは第10章に相当します。
pdf(確率論的地震動2007年版)

Q1:今回の授業で計算式が多々でてきましたが、それらの式は全て覚えた方がよいのですか(よあ、まひ)。
授業で計算を使うものがでてきているので、授業中に簡単な練習問題などをしていただけるとありがたいです(なか)。
A1:今回は試験を意識した質問が多かったようです。計算式といってもたいしたものではありません。微積分程度です。微積分の概念と応用方法がG-R式の展開で理解できるでしょう。覚えるよりも、概念を理解して下さい。式を使うときは、覚えていなくても参考書を見れば済むわけです。理解していなければ、どの参考書を見てよいか、探すこともできないでしょう。
演習時間がないので問題形式で講義を進めることができません。配布プリントに課題を設定してあります。講義の理解度の確認や考えるヒントにして下さい。


Q2:昔、具体的には江戸時代やさらには石器時代などから日本では地震は多発していたのですか?またもしそうならどのような対応をしていたのですか(いか)。
A2:国によって、また時代によって、地震の考え方は大きく異なります。第4回講義(地震の基礎)の配布プリントに昔の人たちの地震の捉え方を載せてあります。読みましたか?地震の原因が歪み蓄積による岩石破壊現象であると理解されてきたのは40年程前からです。学問として非常に若いのです。


Q3:グーテンベルグ・リヒター則は確率論であって全てが正しいわけではないので、実際どの程度信用できるものなのかなと思う(みゆ、もゆ)。
確率は苦手です。というより、あまり信用していません。雨とか宝くじとかあたらないものがまわりにあふれているし、最近、異常気象などで「何十年ぶり!」とか多いですし、エルゴード性だけで再来期間が考えられているわけではないでしょうが、今日話を聞いていたらもっと信用できるのか分からなくなりました(さか)。
A3:今回は、確率論不信任説が多かったようです。ちょっとだけ補足しておきましょう。
確率論は信用できないと思っている人は、「確率」を「当てずっぽう」と捉えていませんか。そうではないのです。逆に、理論モデルで全て決定論的に再現できる現象はどのくらいあると思いますか。そのような真の決定論で扱える現象は殆どありません。殆ど全ての現象は、単純化(=モデル化)し、ある程度の誤差を見込んで設計に載せているわけです。その不確定性がまだ、地震現象には多いわけであり、確率論が悪いわけではありません。皆さんも日々の暮らしの中で、ある見通しをもって行動しているはずです。その見通しに科学性を付与し、合理性を追求するのが確率論です。


Q4:愛知県に大きな被害がおよぶといわれている東海大地震が発生する確率はいったいいくつなんでしょうか(しな)。
阪神大震災は低い確率でも起こったのに、東南海地震はテレビ等で起こる確率が90%以上とか高い数字がでているのに、まだ起こっていません。評価方法に違いがあるのですか(しま)。
A4:確率論が科学的だといわれても、実際に当たらなければ信用されなくなります。では、この質問に確率論はどう答えてくれるのでしょうか。東海地震は明日起きてもおかしくないと30年間言われ続けています。確率値をどう扱うかは難しい問題です。試行回数が多ければ(長い年月でみれば)、阪神よりも東海地震の方が近々起こりそうだった・・・という風に理解すべき情報なのです。今のところ、私は確率値は警鐘と考えておけばいいのではないかと思っています。確率を重要度に諸に反映させてしまうと、低い確率の地震を無視してもよいという対策のミスリードに繋がりかねません。


Q5:地震動入力の考え方が確率論という抽象的なものをとっているのが意外だったが、実際に考えてみると、抽象情報に頼らざるを得ないのかと思った。しかし都市防災は確定論を使用する。都市レベルで考えると、ある程度予期できることなのかと思った。(中略)層剪断力係数は名前が難しいが簡単に工夫されたものだと聞いてびっくりした。地震地域係数が最大1ということですがどういう成り立ちで1なのか気になります(こひ)。
A5:講義の中から色々と思いをめぐらせたようで感心です。
地域係数は、入力値を低減してもかまわないという係数です。地震で大きく揺れる可能性の高い地域を標準の1.0とし、より安全な地域は入力の大きさを1~3割程度減らしてもよい(係数=0.9~0.7)という風にしています。



■第6回 確定論的地震動【2007年11月21日
不確定性が多い地震動を確定論的に扱うとはどういうことなのでしょうか。なぜその必要があるのでしょうか。どう扱ったらいいのでしょうか。地震動の最先端の知識を、2回かけて、できるだけ簡単に説明します。テキストでは第10章に相当します。
pdf(確定論的地震動2007年版)
関連論文。論文なので、少し難しい表現をとっていますが、地域にとって地震動をどのように決めたらよいのか、新しい問題提起をした内容です。
pdf(岡田&戸松)

今回はかなり込み入った話になってしまいました。地震の複雑な発生メカニズムを、どのようにモデル化していくかという話で、内容は大学院レベルなのです。定性的理解でいいので、どのような要因で波が形成されるのか、そこを掴んで下さい。

Q1:数値や式がいっぱいでよく分からなかったのですが、具体的にどのような役に立つのでしょうか(さふ)。
A1:そうですね。今回の講義の印象は、なぜこんなことを知る必要があるの、というところでしょうか。我々(構造物を作るエンジニアや災害を防ぐ防災行政マン、それに一般住民も含まれますが)は、地震で足下がどれくらい揺すられるのか、これを知りたい。なぜなら、知らなければ構造設計や防災対策ができないからです。それもできるだけ詳しく知りたい。地震の原因が分からなかった時代は、地震にただおびえるだけだったのです。なまずが原因と思われていた時代は、なまずのご機嫌を伺う祭事・祝詞が当時の唯一の対策だったのでしょう。現代、これが対策として受け入れられるわけがありません。地震動は遠くの地盤の破壊で発生する波が伝わってくるものだという理解が進んだのは、それほど古いことではありません。その理解の基に対策を立てるとなれば、揺れの大きさに影響する要因探しに研究は進むわけです。地震発生源を点として捉え、そこからの距離減衰(幾何減衰と粘性減衰)で、揺れの大きさを震度や最大加速度などの単一の数値(これを、複雑な挙動を特性指標化するといいます)で表すことが行われました。今回の講義の点震源の考え方です。しかし、構造物は揺れの強さのみで破壊の様相が説明できる程単純なものではなかったのです。より正確に破壊条件を把握し、設計に役立てようとするのは、安全学的立場から、また経済学的立場から、かつ超高層ビルのような新しい構造様式を追求するフロンティアスピリットの立場からもそれは当然の要求です。地震動を地震動の揺れのままに記述し、それを制御する要因を探ろうとする研究です。地震を面震源として扱う研究が進み始めました。特に、エンジニアは建物の規模に応じて影響する地震動の周期帯が異なることに注目しています。規模の小さな建物の破壊には短周期の地震動が影響し、規模の大きな建物の破壊には長周期の地震動が影響します。それぞれの建物規模に影響する地震動を精度よく記述するには、点震源では無理です。最近の研究により、多くの震源パラメータを考えることにより、地震動を再現することが可能となってきました。このように、建物を設計する際に、また地域の地震動入力を予想する際に、今回の講義で扱う確定論的地震動の予測方法が役に立つのです。配布プリントの後半を見て下さい。愛知県における地震動予測マップを載せておきました。これらはその成果の一つです。内閣府のホームページに公開されているものですが、講義でお話ししたこと(次週お話しすること)の知識なしにこのマップを眺めた場合と、知識を持って眺めた場合とでは、これから得られる情報・そこから解釈できる内容・このマップが語りかけている問題点が明らかに違うでしょう。このことに気づくことが、大切なのです。



■第7回 確定論的地震動(2)【2007年11月28日】
地震動をどう扱うか。時刻領域(Time domain)と周波数領域(Frequency domain)の考え方を理解して下さい。愛知県を事例に、ハザード・マップを紹介します。確定論の有用性の一方で、大きな問題点が理解できるでしょう。確率論と確定論はどちらがいいとは言えるものではないのです。使う側が両者の利害得失を理解し、目的に応じて選択すべきことなのです。
愛知県の地震防災を考えるとき、どのような地震動を考えればよいのか、答えがここに載っています。
pdf(中嶋&岡田)

現象を時間領域(Time domain)で扱うことと、周波数領域(Frequency domain)で扱うことを説明しました。その解析手法としてフーリエ解析や応答スペクトル解析があることを説明しました。関連した質問がいくつかありました。

Q1:フーリエの変換について、3年前期の授業では理解不足だったのですが、今日の授業でその原理が分かってよかったです(たま)。
フーリエスペクトルも応答スペクトルも地震学と建築学といった別々のものに使われているのに、根本的には同じものなのですよね?計算の結果的にそんなに違ったものはでてくるんですか?難しいです。大混乱です。フーリエスペクトルはどんな波が含まれているか知るためのものなんですか(しな、なは)?
A1:そのとおりです。どちらも、実測波にどのような周期の波をたくさん含んでいるのかを知ろうという解析法です。フーリエスペクトル解析は実測波を正弦波に分解することでどのような周期の波がたくさん含まれているかを知る方法です。応答スペクトル解析は、実測波で色々な固有周期の振り子を揺らし、その揺れの大きさから実測波に含まれる波の周期の影響度を測ろうとする方法です。混乱している人もいるようですが、混乱することは悪いことではありません。混乱してはじめて理解に近付くのです。原理が理解できると、楽しくなるでしょう。


Q2:断層で破壊が起きる点が移動しながら波が発生している図がありましたが、剪断破壊した地盤から発生する波は同時刻に面が一様にずれるため、破壊が起きる点は移動せず一気にその面から波が発生するのではないのですか(よあ)。
A2:面震源の考え方に関する質問です。破壊点が同時刻に面に一様に発生するとは考えません。角食パンを両手で引きちぎることをイメージして下さい。上から次第に下へ引きちぎられますね。破壊が移動しているとは、こういう現象です。


Q3:振動エネルギーが熱エネルギーに変換される割合とはどれくらいなのでしょうか。それにより(熱エネルギーに変換されることにより)減衰される振動量は少ないように思われるのですが。それによって少し地盤はあたたかくなるんですか。同じように、建物も粘性減衰により全体の持つ熱はどのくらい上がるんですか(くあ)。
A3:波の伝達減衰の質問です。幾何減衰と粘性減衰があり、粘性減衰に関する質問ですね。変換される割合はどんだけ~?といわれても、エネルギー量で答えることはできないので、振幅でどれだけ変換されるかというと、答えは粘性減衰項そのまんまです。すなわち、1:e-kΔです。粘性減衰により振動エネルギーはその殆どが熱エネルギーに変換されると思われるので、地盤も建物も多少はあたたかくなるのでしょうね。でも、温度は殆ど無視できるでしょう。ある建設会社が制振装置を振動を熱エネルギーに変える装置であるというテレビCMをしていますが、事実ではあれ、映像的に大袈裟に表現しているものだと思います。


Q4:超高層建物には小さな地震ではあまり影響がないと言われてましたが、大きな波(地震?)がそんなに来ないことを考えると、小さな建築物より高層に住んだ方がいいのではないでしょうか(みゆ)。
A4:地震の大きさと発射される波の周期の関係についての質問です。長周期波は断層面積がある程度大きくないと震源からは発生しないということをアニメーションと震源スペクトルから説明しました。確かに、大きな長周期波を発生する地震は発生確率が低いから高層階に住むメリットはありそうです。ただ、そう単純ではありません。建物の振動モードを考えて下さい。一次振動モードは上層階程大きな振幅となります。上の階程、揺れた場合、大きな揺れになりやすいのです。すなわち、上昇階程、地震で室内散乱が激しくなりやすいのです。これは地震だけではありません。風で揺れることもままあります。上層階程、船酔い現象を起こしやすい。また、高層階程、建築費用が高くなります。高層階に住むと子供が情緒不安定になるという研究も報告されています。色々な側面から考えるべきでしょう。


Q5:地震のメカニズムの研究がこのまま進んで、地震の全てが分かったとしたら、何がよいのですか。地震自体を防ぐことは難しいと思いますが(かけ)。
A5:さて、本質的な質問ですね。何のために地震学はあるのか、という質問です。地震を止めることはできないのに、地震学からの防災はあるのか。まず、ここで言う地震の全てとは、地震予知の3要素が分かることと定義しましょう。これが事前に分かれば、揺れを止めることはできなくても、少なくとも、①揺れを避ける対策、②揺れに耐える対策は可能となるでしょう。具体的にどのような対策があるのか、考えてみて下さい。講義の中でも、少し触れています。思い出せましたか。他にも色々な対策が考えられます。


Q6:点震源の考え方にしても、面震源の考え方にしても、モデル化することによる弊害が多いと思うのですが。複雑な地震とその影響について、複雑なまま取り扱う考え方はありますか(ひけ、もゆ)。
A6:世の中の計算式は全て、現象を単純化することを前提に組み立てられています。その単純化のことをモデル化というのです。たとえば、ガソリンxリットルでyキロメートル走る車の燃費は、y/xで計算しますが、これも車のアクセルの踏み方を一定に保つ・車は平坦な道路を走る・・・という条件の下で成り立つ式です。モデル化しなければ、計算式(評価式、予測式、制御式・・・)が構築できないのです。しかし、このモデル化に現象の複雑性を考慮しようとする研究が試みはじめられています。カオス的挙動の研究です。当研究室では、建築物の挙動把握に学会で初めてカオス研究を持ち込み先駆的研究を進めています。



■第8回 地盤の増幅特性【2007年12月5日】
前回の積み残しがあります。愛知県の断層マップとそれから計算されるHazardの話をします。そのあと、Hazard Assessmentの最後の砦、地盤増幅の話です。テキストでは第2章に相当します。
pdf(地盤増幅2007年版)

前回の積み残し(確定論的地震動予測)に関する質問です。

Q1:内閣府と文科省での(想定断層)パラメータが異なる場合、やはり内閣府を信じるべきなのでしょうか(こし)。
Q2:文科省と内閣府で表示している地震(動)予測が違うということは、救助や支援などのことを考える場合非常に困ることだと思いました。この二つが協力体制をとる予定はないのでしょうか。また、愛知県はどちらの表示を使っているのでしょうか(みだ、ふあ)。
A1・2:断層のパラメータがじつは不確定要素が極めて大きく、この決め方によって地震動分布が大きく異なるのだという説明で驚いた人も多かったようです。対策する場合、どちらを信じたらよいのか困りますね。どちらを信じるかという問題ではなく、どちらも可能性としてあり得るのだということなのです。決定論的に地震動を予測した場合、むやみに値を信じるのではなく、この程度に地震動はばらつくのだということを覚えておくことが大切です。地震工学者に言わせると、提案された値(たとえば最大地動加速度)は、倍半分の精度だということです。すなわち、50~200%の間でばらついているものだというのです。私は、本当はもっとばらついていると思っていますが。そのばらつきを頭に入れて、対策を立てることが重要です。具体的な対策の立て方は、論文(岡田・戸松)を読んでください。今回の出来事(文科省と内閣府で異なる地震動予測結果を公表したこと)は、その不確定性を世の中に知らしめたという意味で、困ったことというのではなく私は評価しています。


Q3:活断層が表面にでてきている断層ということは分かりましたが、地表面に出てきていない断層はきちんとどこにあるか把握されているのですか(なけ)。
A3:地表面に出ていない断層はなかなか把握することが難しいのです。この断層のことを伏在断層と呼んでいます。2007年発生した新潟県中越沖地震がそうですね。柏崎市の原子力発電所建設時には想定されていなかった断層が動きました。我々の住んでいる足下には見えない断層が、まだまだあるはずです。


Q4:授業で過去の地震を再現し、いろいろなことを推測できるようになってきたと言っていましたが、それは過去に起こった地震の中でしっかりとしたデータがあるものでやった場合、推測して得たデータは本来のデータとどれくらい一致してくるのでしょうか(はひ)。
A4:過去を再現して(講義では福井地震の再現でした)どの程度の予測精度があるのか、という質問ですね。過去の地震は、地震動の観測データがないので予測精度を議論することはできません。それ以上に大事なことは、地震動データのみならず、近代的構造物は、まだそれほど大きな災害を経験していないということなのです。超高層建物にいたってはわが国では建設開始から高々50年です。設計の経験は踏んでいるが、災害の経験(設計の検証)は受けていないという現実にもっと真摯になるべきなのでしょう。


ここから、地盤に関する質問です。

Q5:液状化を防ぐ方法はあるのでしょうか(あと、ちあ)。
Q6:最近、地元の桃花台でも地盤沈下が起きて、市と住民と(の間で)問題が起きています。地盤沈下が起きたとき住民たちに行政はどのような救済措置がとれるのか(せし)。
A5・6:発生してしまってからの行政救済措置は、広域に渡る補償問題が発生するのでいろいろと面倒ですね。まずは、宅地開発を行ったのなら、事前に、市民に分かる形でどこが軟弱地盤なのかを情報公開するべきでしょう。市民も土地に関する知識(価格や住環境のみではなく、地質や災害情報)を学ぶ姿勢が大切です。また、地盤が軟弱だからといって、必ずしも災害になるとは限りません。その土地に見合った建築構法(基礎の強化法)があります。それを取り入れることです。私の実家も軟弱層の上に立っていますが、摩擦杭を採用しています。
なお、液状化を防ぐための土地改良方法については、第2回目講義のQ3に同じ質問がありますので、そちらを参考に。


Q7:揺れやすい地盤に都市が成立していて、林立しているビルは杭を深くに打っているから大丈夫だと思われるなら、外を歩いている歩行者や普通の家に住んでいる人のほうがビルで生活している人より危険ということになるのでしょうか(さか)。
A7:揺れの大きさや周囲の環境により、一概にどちらが危険とは言い切れません。ただし、人がたくさん集まるところが危険というのでは困りますね。安全を優先させた街づくりが求められているのです。


Q8:大きく見ると、だいたいいつも都市のできているところが揺れやすかったりする気がするのですが勘違いでしょうか(さふ)。
Q9:やはり都心部など埋め立てや盛土・切り土、干拓などにより地盤が緩くなっている県が沿岸部にあるのと、断層があるのと両方の要素によって沿岸部が危険なのですか(くあ)。
A8・9:そのとおりですね。関東部屋や濃尾平野などの大規模平野は、堆積層が厚く積もったところなので揺れやすいのです。しかしそこは平らで、水の出もいいので人が集落を作りやすいところです。危険なところ程都市が発展しやすいという関係性は、認められます。そのような大規模平野はどこに発達するでしょうか。地球が温暖なときの海進現象と大河による堆積作用が最も顕著な沿岸部です。不幸なことに日本は、沿岸部がサブダクションゾーンに一致しているところが多い。二重の不運が重なっていますね。


Q10:その土地でどれくらいの揺れがあるか予測するのは大切なことだとは思いますが、結局、建物は最大震度に合わせて設計すべきであり、どこがどう揺れるのかという議論は設計にあまり意味を持たないのではないかとも考えられました(よか)。
A10:単体設計ではそのとおりです。揺れの空間的分布は集団設計(都市計画)に極めて重要な情報を与えます。次回お話しましょう。



■第9回 地盤の増幅特性(2)【2007年12月12日】
前回のQ10に関する論文です。地盤の影響で地震動分布に地域性が大きく表れることが予想された場合の、都市計画的防災手法の例です。
pdf(岡田&太田)

Q1:最初に見たビデオが関東と新潟であまりにも揺れ方が違ったのでとても驚きました。新潟も関東も地盤がとても軟らかいということなのでしょうか(ふあ)。
Q2:地盤の柔軟性(豆腐とまな板の例)によって様々な動きを表すということを学んだのですが、地盤によって短周期と共鳴したり長周期と共鳴したりすると思うのですが、そういう考えはないのですか。これを考えると軟らかい地盤は悪いと一概に言えないと思うのですがどうですか(いか)。
A1・2:地盤の特性はS波速度Vsと密度ρとその深さHで表されると講義しました。もう少し言えば、波動インピーダンス比と深さです。硬さ比と深さです。そして、揺れの大きさ(振幅)は硬さの比で決まり、卓越周期は深さで決まります。ふあ君の質問には、柔らかいことに加え、それが厚く堆積している(深さが深い)ため、というのが答えになります。いか君の質問には、周期のみを考えるとそのとおりです(たとえば、土蔵のような短周期の構造物には長周期地震動はそれほど影響しません)が、揺れの大きさという面から見ると(基盤に対して)軟らかい地盤は大きく揺れるので、共振しなくても大きく揺れるという点で問題となります。


Q3:堆積層があるところは地盤が軟らかいというのは分かりますが、関東平野がそうなのは、地形が川による三角州であるということで理解できるのですが、濃尾平野とずいぶんと差が出るのは何が原因なのでしょうか。元々の地形で堆積していた土の地質のせいなのでしょうか(こひ)。
A3:恐らく、平野構成する基盤の規模の違いなのでしょう。平野の平面的広がりをW(関東平野をWk、濃尾平野をWn)、深さをH(関東平野をHk、濃尾平野をHn)とすると、共に、Wk>Wn、Hk>Hnなのでしょう。


Q4:地表面における(地震動の)反射・透過で、固い地層から軟らかい地層へ地震波が(入射したとき)、反射するときは(振幅が)減少しますが、透過するときは増加します。反射も透過も減少するというイメージとして捉えやすいのですが、透過はなぜ増加するのでしょうか(せし)。
A4:まな板の上の豆腐の振動は、まな板を指ではじいたくらいでも、それ以上に大きく揺れるでしょう。硬いところから柔らかいところへ波が抜けるときは、拘束力がほどけて揺れが大きくなる。たとえはちょっと違いますが、鞭のしなりをイメージしてもよいかも知れません。鞭を持つ手の動き(入力)以上に鞭の先は振動しますね。入出力の関係が逆転する現象は、結構あるものなのです。ことわざにある「鳶が鷹を生む」もその一つでしょう。


Q5:地表層が厚い地域に東京や大阪等の大都市がありショックだった。Risk=H×Vなので、Vを頑張ればよいとの話でしたが、頑張れるものでしょうか(経済的に)(たま)。
Q6:現時点での地震イタイする建築的対処の技術は、ある程度Riskを最小限に抑えるぐらいに満足なものだと思いますか。まだまだ研究すべき分野であり、満足できるものではないと思いますか(くあ)。
A5・6:完全なRiskゼロを実現するのは無理だと思います。人間の生活そのものがRiskなのですから。しかし、ゼロに近づけること、そしてまだ発現していない新たなRiskを発見し、未然に防ぐ、このような努力が必要なのです。現状はどうでしょうか。地震で家を失ったり、傷ついたりする人が繰り返し発生しています。研究としてまだまだ満足できるものではありません。研究に終わりはないと思います。



■第10回 リスクマップの利用法【2007年12月19日】
いよいよ原理を卒業し、防災への応用を考えるときが来ました。対策には事前・最中・事後とあります。まずは、ハザードマップやリスクマップの利用法です。第8回(地盤の増幅特性)の質問Q10(よか君の質問)に答えましょう。
pdf(リスクマップの利用法)

今回の話は、今まで講義してきた「地震と災害の発生メカニズム」の応用編というべき防災対策についてでした。ようやく理論編を卒業したせいか、これまでの話をトータルした防災理念について多くの質問が寄せられました。また、講義内容が当研究室の研究が主たるものであったためか、防災についての新たな発見もしてくれたようです。

Q1:地震のことや災害の対策・対応について考えさせられました。災害がどう広がったりどうなるかのイメージができるということも重要なのだと思いました。もっとオールラウンドに対応できるプランやセオリーはあるのですか(いか)。
A1:本講義を通して学修してもらいたかったことの本質がこの回答になると思います。これまで建築の種々の講義を受けてきたと思いますが、地震の発生からはじまり災害に至るまで、それらを防ぐまたは拡大を抑えるための対策は、構造・計画・環境・材料・施工の全ての要素が関わっていることを理解してください。防災は構造であり計画であり、また環境であり材料であり施工のオールラウンドの協働で成り立つものなのです。


Q2:予防型対策として年づくり・都市計画のあり方の重要性がよく分かりました。今回授業の中で米国の例が出てきましたが・・・(中略)・・・、日本で主要都市に米国の例を取り入れたら、やはりある程度効果が見込まれるのでしょうか(はひ)。
Q3:道路整備は無駄だという風潮にみられるように、防災や都市の発展のための都市計画がいかに市民のために必要かが、全く市民に理解されていないと思います。土地区各整理が判定でなかなか進まなかったり、ただの税金のばらまきだと思われたりするのは非常に残念です。都市計画の教育や理解の促進は、もはや、研究者側が努力するしかないのではないかと最近思うようになりました。どうお考えでしょうか(よか)。
Q4:これまでの30年程度で取り壊して建て直すという流れから、サスティナブルな社会ということで100年・200年と保つ家をつくっていこうという流れに変わっていく中で、ここの建物が動かなくなる分、都市計画が重要になってくると思うのですが、一方で、この個人主義の傾向が強い社会において、行政が規制をかけるのが遅れた場合、都市計画がなかなか進んでいかないと考えられます。その辺の個人と社会の関係はどのようにあるべきなのでしょうか。サスティナブルという流れも含めて(ひけ)。
A2・3・4:質問内容は三者三様なのですが、これらに対する私の答えは共通しています。日本の教育が抱える根本的問題が払拭される必要があると考えています。日本に米国の制度を取り込む社会的余裕があるかどうか、またサスティナブルな都市がもてはやされる中での個人と社会のあり方、これらが社会的大きな問題であると日本国民全体が理解できる環境にあるかどうかが、ポイントです。サスティナブルという概念を理解できる国民ならば、都市や建築に対する安全性・利便性・美意識に鋭い感性をもっている国民ならば、制度の浸透は容易だと思います。一つの例を挙げましょう。今やわが国では携帯電話なくして社会生活は成り立たなくなってきています。これほどまでに携帯電話を発達普及させたのはなんだったのでしょうか。それは、携帯電話を使いこなす世代が登場したからに他なりません。社会を動かす団塊があればこそ、社会は変革していくのです。都市や建築に対する義務教育が幼少期から必要だと思っています。社会のモラル形成も建築や都市(すなわち環境)に対する感性と表裏一体のものだと思うのです。安全で使いやすく美しいまちづくりが、国民からの声として叫ばれるようになれば、その実現も加速すると思います。そのための基礎作りが幼少期における都市建築教育にあるのだと思います。国民のモラルと感性の改革、これは研究者だけの努力では実現しません。


Q5:ハザードマップ・地震工学の観点からの対策パターン分類・被害想定などを利用して、具体的になされた対策はあるのですか。もしまだなされていないなら、当初どんな目的でこれらはつくられたのですか(あと)。
A5:残念ながらハザードマップを作ることが防災の最終目的になってしまっている自治体が少なからずあります。マップの問題点とマップの有効活用についての指摘論文は岡田&戸松が唯一です。


Q7:都市マスタープランを作成するに当たりハザードマップを導入・考慮することが大切だということが分かりました。一度だけの診断だけでなく、毎年の診断が必要だと言うことでしたが、現実行われているのでしょうか(みだ)。
Q8:札幌の例にあったように危険な地域に向かって街が拡大しているという点は新しい見方だと思いました(ふあ)。
A7・8:リスクマップを継続的に評価することで都市の診断と位置づける考え方は、当研究室独自のものです。一般的には被害想定という形で、一つの災害形態(シナリオ)とみなす立場をとっています。しかしこれでは、リスクマップの使い方が限定されてしまいます。診断と位置づける方が優れていると私は思っています。最近は、10乃至20年を目処に被害想定を見直すことをはじめた自治体もありますが、一旦被害想定を行ったら、予算の関係もあり、それで終了とする自治体が殆どです。


Q9:今までリスクマップは被害想定を出すためだけかと思っていたが、避難所の大きさ・災害時の配備人数などを考えていくためにも重要であると思った。しかし、(断層)パラメータを変えると大きく被害想定が異なってしまうため、診断するのがとても困難であると感じた(すた)。
Q10:札幌市の例で、市街化調整区域指定によって対策・規制を与えることで、被害の大きさ・数がこれほどに変化することに驚きました。対策意思決定をする際、いろいろなケースを考え始めると対策が多くなり、決定するのが難しくなると思うのですが、これに対して基準などがあるのでしょうか(なは)。
Q11:市街化を調整する以外にどんな対策があるのでしょうか(ふあ)。
A9・10・11:確かにパラメータが変わると結果に大きく影響し、診断(被害評価)の解釈はむずかしいです。しかし、そこであきらめてはいけません。不確定要素の多い診断結果ではあるけれど、それをどのように利用すれば災害を防ぐ確率が高くなるかを考える必要があります。一つの考え方は岡田&戸松に掲載されていますので参照してください。また、地域地区指定は都市計画からの手法ですが、その地区内の単体を建築計画(構造計画)からの手法で耐震化したり、そこに起居あるいは働く人たちの防災活動を向上させるなど、多角的な対策を考えていくべきでしょう。


Q12:日本若しくは世界の都市で、今回の講義での札幌のように災害対策をして、見事に災害に対応できた事例はありますか(かみ)。
A12:見事に対応できている都市はないと思います。恐らく、これからも出てこないでしょう。なぜなら、都市そのものが変化し、それに応じて災害も進化するものだからです。自然は必ず弱点をついてきます。完全無欠の人工物(都市)は想像しにくいですね。まずはその歳の最大弱点を見つけ、対応することでしょう。


Q13:地震の将来的危険度はその地域で1回地震が起こると減少するのでしょうか。またその逆で、長期間その地域で地震が発生しないと危険は上昇していくものなのでしょうか。地震が発生した後に、危険度が変化する場合は、大地震と小規模な地震とでその変化の幅はどのくらい異なるのでしょうか(なか)。
A13:地震エネルギーの蓄積のところで述べたことですが、地震が発生すると歪みエネルギーは解放され、地震が発生しない間にエネルギーを貯め込みます。したがって、最初の質問は「逆」ではありません。しかし、ここで問うているのは地震ではなく危険ということですね。危険すなわち災害は地震ハザードのみでは決定しません。受け手の街の構造も関わってきます。街の変化を考えて危険の大小を判断すべきです。


Q14:行政の地震に対する対策は、影響がとても大きいと思いますが、小中高などの避難訓練のようなものが自治体単位でも行われている例はないのですか。自治体などでも訓練をした方がリスクや混乱は大幅に減少すると思うのですが(くあ)。
A14:9月1日は国民的防災の日で、自治体はもとより、国を挙げて訓練をしています。しかし、これも形骸化してきているのは事実です。マニュアルに従って全てシナリオどおりに訓練をすることに、意味なしとまではいいませんが、それほど大きな効果は期待できません。事実、そのような訓練を経ても、実際の災害時には皆混乱しているのですから。


***変更案内***
1月16日(水)は講義としての最終講義です。
1月23日の週は学生研修旅行のため休講とします。
期末試験は1月30日(水)に行います。



■第11回 個人ベースの防災【2008年1月16日】
最終講義は個人(世帯)が地震に強くなるための方策提案です。国の施策は個人に対しては自己責任の一言で片づけてしまっているように思われます。スローガンではなく具体的な対策戦略を個人防災コンセプトに沿って展開します。okdワールドを時間いっぱいお話しします。
pdf(富山県講演要旨)

武村氏の講義教室が決定しました。教養棟110室です。2月7日(木)、同室に参集のこと。

Q&Aが充実してきました。他の人からの質問で理解が進むこともあります。また、講義中には話せなかったことや参考文献なども掲載していますので、必ず目を通すようにしてください。


2008年1月26日
期末試験を以下のように実施します。
○日時:1月30日(水)10:30~11:30に行います。
○場所:109室
やむを得ない理由により当日試験を受けることができない者には、追試験の機会が一度だけ与えられます。該当するものは1月30日17:00までに、その理由を岡田までメールで申し出ること。理由によっては認められないこともあるので注意のこと。追試験の日時・場所は追って本人に知らせます。追試験とは、交通事情・病気等のやむを得ない事由により試験を受けられない者についての救済措置です。

鹿島建設・武村雅之氏の講演案内です。できるだけ出席して下さい。
○日時:2008年2月7日(木)
○場所:教養棟110室
○題目:先端科学と地震防災
○時間: 10:30~12:00 先端科学は役に立つか?
     13:30~15:00 地震災害に学ぶ
     15:30~17:00 防災の基本は何か?


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