2011年度版 地震工学テキストダウンロードサイト

講義資料をこのサイトから配布します。各自ダウンロードし、講義に持参のこと。
その他、休講案内などもこのサイトを使いますので、逐次チェックのこと。

このサイトの資料配付は終了しました。



【2011年4月11日】
■第1回 導入
配付資料は、以下のpdfです。右クリックし、ファイル保存。
Pdf(導入 730Kb)


【2011年4月18日】
■第2回 被災事例
本年3月11日に、東北地方太平洋沖を地震とするM9.0の巨大地震が発生しました。津波と液状化被害が目立っていますが、そのメカニズムについて知っておきましょう。なぜ、引き波が先にやってくる海岸と押し波が先にやってくる海岸があるのか。震動被害が卓越するのは内陸直下地震です。中越地震と中越沖地震でその被害を確認しましょう。被害を個別に見る見方とマクロに統計的に見る見方で、見えるものが違ってきます。配付資料は圧縮してあります。
Lzh(地震被害事例 3Mb)


学生からの代表的な質問に回答します。回答にはM1学生(おひ君、みゆ君、さこ君)に協力してもらいました。
今回は東北地方大平洋沖地震(東日本大震災)を話題にしたため、津波と液状化に関する質問が多かったです。


Q:今回起きた地震では、日頃から避難訓練が行われ,防潮堤も世界一と呼ばれるほど津波対策はしっかりとされていたのにもかかわらず、多くの死者が出た。これからの対策として考えられることは何か(しま、うま、よか)?
A:今回の地震は1000年に1度といわれるほど大きな地震で、ここまで大きな津波が来るのは想定の範囲外でした。しかし、防潮堤を設けることによって津波が到達する時間が緩和されるなど必ずしも無効であったわけではありません。これ以上の防潮堤を建設するのは、コストパフォーマンス等様々な問題があります。ですので、海岸沿いに住んでいる場合、地震が来たらすぐに高台に逃げる心構えが最も重要であると思います。ただし、逃げる際に、ヘルメットとライフベストの着用を義務づけるのがベストでしょう。
都市計画上は、災害入力の来ない場所に集落形成することです。そうなると漁業は職住分離ということになります。都市計画上のコンパクトシティを否定してしまいます。都市計画的ハードウェアでの防災に活路はあるでしょうか。私は海上都市かなと思っていますが(一応、職住接近ですし)、さて、どうでしょう。


Q:奥尻の津波においての復興(高台移転への反対、防潮堤の設置による海沿いでの生活)は、地域外から見ればダメなケースだと読み取れますが、外部(国)などからの介入はなかったのですか(ゆか)?
A:行政(北海道)からの奥尻復興への本提案は全面高台移転案でした。残念ながら、その案は住民の声により町は採用しませんでした。住民の声を聞くのは非常に重要なのですが、間違った声に地域行政が反応してしまったと言うことです。元々奥尻島は岩盤で震動被害は小さく押さえられたのですが、津波対策としての海岸近くの住宅地造成を盛り土したことにより、住宅地が軟弱地盤化したことや、防潮堤は北海道南西沖地震の再来にしか対応させていないため浸水高が低かった地域には防潮堤高さが不十分となる可能性が大きい、義援金を町の復興基金とせずに多くを住民の生活再建支援へ回したため、復旧が一段落した時点で復興事業が終了してしまった等々、の問題が残りました。奥尻復興モデルを東北では採用しないでもらいたいですね。


Q:現代になって地震のことがちゃんと研究される以前の時代にも、耐震のことはちゃんと考えられていたのだろろうか?もし今より昔に今回のような地震が起きていたらもっと大変だったと思います(あこ)。
A:建物は自重(鉛直力)と自然外力(水平力)にどう耐えるかがテーマの作品(人工構造物)ですので、地震のことは経験則的に考えていたと思われます。法隆寺五重の塔は構造材ジョイント部分の仕口は今で言えば免震装置として働いていますし、振り子のように動く心柱は制振作用を塔全体に与えています。いわゆる柔構造です。しかし、その効果は専門家により多少異論があるようです。実際に建ち続けている神社仏閣をX線撮影したものをみると、鉄骨で(最近になってから)補強してある物が多いです。


【2011年4月25日】
■第3回 災害管理概論
地震の話の前に少し一般的な話をしておきます。本講義での対象は地震という自然現象からの難の逃れ方ですが、考え方の基本は一般のリスクマネジメントと同様であり、応用性の高い考え方です。普段自分の身に降りかかってくるリスクを避けるためにも、理解を深めてください。
Pdf(災害管理 1.8Mb)

一般論で概念的な話だったため、多少難しかったでしょうか。今日の話は、これからの具体的話題の世界観マップ(目次)だと位置づけてください。そうすれば、今日の話の意味づけや次回以降の具体論の位置づけが明確になってくるはずです。


Q:防災の分野においては、人の心の動きだとか、心理学の知識も必要なんだと感じましたが、防災の研究室では全員がその分野の勉強もするのですか(まゆ)?
A:心理学の話はした覚えがないのですが・・・。「勉強」とは、「おもしろさの追求」だと思っています。しかし、専門馬鹿にだけはなるなと言っています。防災は学際的学問です。最近の若い研究者にはたこつぼにはまった勉強をしているものもいますが、そこに留まるのではなく、そこを起点に世界を広げていって欲しいと思っています。世界を広げることが勉強であり、おもしろさもどんどん広がっていくのです。今抱えている難題も、ちょっと周辺領域を見回すと既に解決法があったり等することに気がつきます。それも世界を広げることの大切さであり、自分のテリトリーを広げることにも繋がります。


Q:阪神・淡路大震災や中越の大地震など、日本ではたびたび大規模な災害が起きているのにもかかわらず、今回の東日本大震災の政府などがきちんと対応していないように感じたのですが。これはいつもより規模が大きかった津波などの異なる状況が起こったからですか?それとも単なる準備不足ですか(みた)?
A:このように大規模災害が発生すると、時の為政者は何をやっても非難されるものです。むしろ私は逆に感じています。もし、阪神淡路大震災の前に東日本大震災がやってきていたなら、こんな程度では済まなかったであろうと思うからです。阪神淡路大震災の教訓が大いに生きていると思っています。まだまだ生かし切れていないかも知れませんが。


Q:個人で持たなきゃいけない責任と地域行政が持たなければいけないことは理解できたが、日本は何かと個人の責任を地域や行政になすりつけている気がする。逆もしかりだが、海外ではもう少し責任の所在がはっきりしているのだろうか。なぜ、責任の所在がうやむやになる議論が多いのか(おて)?
A:責任や義務を相手に求めたり押しつけたりする議論は不毛です。当事者が自分の持ち分や役割を意識することが重要なのです。そういう意味ではどの国も似たり寄ったりではないかと思っています。なぜそのことに責任があるのかが理解できて初めて、その責任を全うしようと人は思うのではないでしょうか。講義で提示した時間軸-対策主導軸の平面上に記載された項目(自助/共助/公助)はその責任範囲を明らかにしたものです。このような視点での整理が重要だと私は思っています。


Q:リスクにおける影響頻度には、間接被害と時間が経った後の被害が加わっているのでしょうか(ゆか、なの)?
A:その式を使う人次第です。「影響」をどう定義し、定量評価していくかは研究者あるいは防災にかかわるステイクホルダーの災害観に左右されます。想定外はその人の災害観が狭かったということを吐露した言葉です。私の講義では一貫してそこを広げた話に重点を置いています。今回の講義で防災の職能を示しました。哲学-物理学-数学-社会学-医学など、他の建築の講義では触れない領域についても話が展開するのはそのためです。


Q:日本は震災の多い国だと言われていますが、なぜアメリカのようにその災害に対抗できる機関が備わっていないのでしょうか(ゆか)?
A: 防災組織は誤解を恐れずに一言で言ってしまうと、軍隊組織に近いのです。そのような組織形態を日本は受け入れがたかったのは確かだと思います。危機管理の専門チーム(アメリカ流のFEMAのような機関)がある一定期間意思決定を司るようなことがあっても良いのかも知れませんが、やはり防災は長期的に国土計画として取り組む課題です。時の政治家に優秀な人が排出していないからというのが一番の理由なのかも知れません。


Q:個人でできる災害への対策の方法を伝えていくのも行政の仕事であるとは考えられますか(よか)?
A:これまでの個人に対する問題点の一つは、何が問題かが整理されていなかったと言うことでしょう。そのために行政は何をして良いのか悩んでいたというのが実態です。まずは、個人対策に必要なスキルを開発すること(これは行政と言うよりも研究者との共同で進めなければなりません)。次いで、スキルの学習です。これは行政の大きな仕事と考えます。


【2011年5月9日】
■第4回 防災政策論
前講において防災対策の主導レベル軸について触れました。まずは世の中の動きを理解しましょう。行政による公共的対策が防災政策です。政策が自然の脅威に対して十分に機能しているかと問われれば、犠牲者がいっこうに減らない現実に誰もがNOと答えるでしょう。なぜなのでしょうか。自然の持つ不確実性というルールが人間社会の経済原理に反するからなのです。地震は自然現象ですが、災害は自然現象と社会現象のからみあいで発生します。災害を単なる自然現象としてとらえていては不十分なのです。もちろん、災害を社会現象として受容するわけにもいきません。災害の各論に入る前に、我々の社会を動かしている経済学から災害と対策について見直してみましょう。
 Pdf(防災政策論 455Kb)

学生からの質問票への回答が1週遅れてしまいました。今回は同様の質問が多かったのでそれについて以下に補足しておきます。


Q:住宅耐震改修促進法で支給が可能となった耐震改修費用(上限60万円)で、十分な改修ができるのですか(関連質問:いと、おゆ、さあ、ちこ、)?
A:同法は耐震改修を行う際の費用補助という意味合いですので、これですべての改修が可能というわけではありません。しかも支給の条件が一般には、耐震評点を1.0以上に上げることとなっていますので、0.8の家を0.2だけ上げる場合と、0.1の家を0.9上げる場合ではかかる費用が桁違いとなります(愛知県では、耐震評点1.0という条件は取り外され、改修する場合はその程度に応じての補助が受けられます)。改修費用は一般には、住宅基礎に手を入れなくてはならない場合は、新築とほぼ同程度の経費が必要となります。木造住宅の場合、新築の坪単価は大凡50万円/坪ですので、住宅規模が20坪ですと1,000万円かかります。補助額は確かに小さく、補助を受ける世帯が増えない理由の一つですが、財源は国が負担分の1/2を、都道府県と市町村が残りの1/4ずつを負担するしくみとなっているので、財政的に厳しい自治体のことなどを考慮して算出した値なのでしょう。しかし、耐震改修という個人資産に税金を投入可能にしたのは(税投入可能な根拠は、個人の住宅倒壊に伴う地域への被災リスク増大を行政(税金)により低減させるため)我が国の防災上大きな進展だと思います。


Q:なぜ愛知県は防災対策が進んでいるのですか(かゆ、みか、やた、やみ)?
A:誤解しないでもらいたいことは、愛知県が理想的に防災力が向上しているのではなく、他の都道府県に比べると頭一つ出ていると言うことです。あくまでも相対的な比較で進んでいると言うことであり、まだまだ不十分であることは忘れないでください。では、なぜ愛知県が他の都道府県に比べて進んでいるかというと、恐らく、想定東海地震という防災の対象がはっきりしていると言うことだと思います。何かの目標を立てる場合、具体的であるほど実現できる可能性が高いのは、日々のマネジメントで経験済みではないでしょうか。小泉政権が専門家からは色々批判されていたにもかかわらず、国民の支持を長期に亘って得ていたのも、ワンフレーズポリティクスという分かり易いメッセージがあったからだと思います。

他にも、なぜ防災対策は進まないのかという根源的質問がありましたが、それについては5/16(第6回)講義で解説しました。


【2011年5月16日】
■第5回 防災政策論(続き)
今回は講義とは関係のない的外れな質問が多かった。講義内容は経済学に入り込んだとはいえ、かなりプリミティブな話でした。建築は工学でも社会生活と直に繋がる領域です。自分には関係ないと決め打ちしないでもらいたい。自らの生活との接点はかなり発見できるはずです。広角的視野を建築家の職能の一つとして強く認識し、講義に臨んで下さい。


Q:人口集中した都市には魅力が多いが、将来、東京や大阪などの大都市で大災害が起こった場合、人口が公害へ流れてしまうことが予想される。このとき大都市は復旧又は復興できるのだろうか?また、東北のように元々少子高齢化が進んでいて、数十年後には震災がなくても自然消滅してしまうようなコミュニティも少なくない中で、地域をどこまで復旧すべきか(いな)?
A:東京大震災が起こったとしても、東京がすべてゼロに壊滅するわけではありません。震災後でも相応の人口は抱えているはずです。そうなれば、そこを核にまた集落形成は始まります。そのときにどのような街を目指すのか、東京都は今から震災復興計画を練っています。
東北の将来はどうなるべきか、今まさに議論沸騰中の話題です。あなたは東北地方に対してどういう未来像を描いていますか。


Q:住宅を長寿命化させるためにはメンテナンスも重要だと思うし、建築分野の技術について市民レベルでの知識を高めていかないといけないと思います。知識を広めるとするならば、どの機関が牽引していくのが現実的なのでしょうか(かゆ)?
A:住宅の長寿命化に価値を見いだすためには、しくみ的に社会全体の気運を高めていく必要があり、そのためには国民の合意形成が必要です。その影響度の大きさは即効的にはマスメディアが握っているのでしょう。しかし、マスメディアを含め国民全体の認識レベルが高まらなければ気運も生まれません。そこで重要になってくるのが教育です。特に、義務教育期において「住」の価値観をしっかり教え込むべきだと思うのです。


Q:生活再建支援策への不合理な反対論が発生しているという説明の中で、再建支援不必要論は中間所得者層(自力再建者は二重ローンにより最も厳しい層になり得る)を無視した意見であるということでしたが、自力再建者は、再建するために必要となったローン返済に加え、被災する前からのローン返済もしなければいけないということですか?何らかの免除はないのですか(さあ)?
A:二重ローンとはそういうことです。阪神大震災でもこの状況は大きな問題とされました。阪神の例を受け、今回は政府として何らかの対応をしていきたいとの所信表面がありました。どのような結果となるか、国民は注目していかねばなりません。


Q:防災政策が市場原理の中で自然発生的には浸透しないという話を聞き、確かにその通りだと感じました。そこで、防災政策を円滑に進めるためのキーワードにパラダイムシフトがありましたが、持続可能性を考える上で防災にとって何か支障はないのか疑問です(なの)。
A:講義では、防災政策を進める一つのキーワードとして持続可能性社会があり、それを防災の一助とするパラダイムシフトが必要と説明しました。質問は、持続可能性が防災にとり悪い面はないのかと言うことでしょうか。自分で考えてみましたか?持続可能性と防災は対をなすキーワードではなく、持続可能性社会の先に防災に強い社会形成が見えてくるというとらえ方をしてはどうでしょう。持続可能性が防災にネガティブに働く可能性は、あえていうならば、持続可能性は急速な変化を容認しにくい慣性力を持つ概念だということです。防災への適用を考える場合、想定外の新たな災害に対するセーフティネットを忘れないようにすること、が条件として付加しなければならないことでしょうか。しかしこれも、持続可能性が保持する防災に対する欠点というわけではありません。


Q:地震に対する防災を完璧にするには、やはり1人1人の理解が大切だと思う。それぞれが震災に対しての危機感を持っていないと対策は難しいと思う。そこで、国民全員が震災に向き合うために建築学的に可能なことは何ですか(ほあ)?
A:君が指摘したことは「認識」レベルの話ですね。講義でお話ししたリスクマネジメントの4段ステップを思い出して下さい。認識→理解→評価→実践です。建築学的にできることは順を追って「認識:あなたの周囲に地震危険が迫っていますよと認識させること(ハザードマップを示す)」→「理解:どうしたら危険から逃れられるかを教えること(自助・共助・公助の重要性を教育)」→「評価:自宅の耐震診断を実施すること」→「実践:危ない家なら耐震補強すること・室内を安全化すること・地域連帯性を醸成し共助を磨くこと・行政に対して防災を政策の優先課題とする働きかけ(選挙)をすること」でしょうね、一例ですが。このようなことを講義しているつもりですが。


Q:地方分権社会のデメリットはあるのですか(ほあ)?
A:今の社会の流れの一つに地方分権化が上げられるという話をしました。これが防災政策上良いことなのか悪いことなのか、という話ですが、講義でも説明しました。地方分権が、防災政策にかかわらずうまくいくかどうかはその首長の能力次第です。メリットにもデメリットにもなります。それを選ぶのは我々住民であるということ、すなわち我々の首長選択能力が地方分権の正否を担っているのだということです。これはメリットでしょうか、デメリットでしょうか?


Q:Human Securityに対する急速落下防護ネットについて興味を持ったのですが、建築的な具体的解決案は今まで提案されたことがありますか(ふゆ)?
A:どのような点に興味を持ったのでしょう。自らの将来的生活像に思いをはせたのでしょうか。Human Securityに対する防護ネットではなくて、Human Securityという立場から必要な防護ネットという意味で使いましょう。現時点では建築的施策としては、最低限保障される生活レベルの中に「住」が含まれていると解釈すべきなのでしょうが、路上生活者が認知されている社会では憲法による最低保障に「住」は含まれていないのかも知れませんね。君はどう考えますか。


Q:低頻度高被害型リスクについて、なかなかお金をかけられないことはよく分かりましたが、これにもお金をかけるとすれば、そのお金がやはり税金から作られるのですか(うま)?
A:低頻度高被害型リスクに対する対策は自然発生的には進まないということを説明しました。公共的対策を進めるには税金投入ということになりますが、財源はどうするかという問題があります。これについては、「藤井聡著:公共政策が日本を救う(文春新書)」という本がありますので、読んでみて下さい。日本は財源は意外とあるのですよ。


【2011年5月23日】
■第6回 災害の性格
Pdf(災害の性格 1.2Mb)


Q:東日本大震災を経て、東北地方の被害状況や金銭的な面から考えて、以前のような生活に戻ることは最善だと言えるのか(いり)?
A:大きな災害を受けてもなお、元の生活に戻るというのは最悪の復旧シナリオです。災害を受けないような生活に復興することこそ東北地方のこれから目指すべき道だと思います。今、東北地方の復旧/復興計画は政局(政治団体の力関係の利用手段)とされてしまっています。問題は、被災住民の今の生活をどうするかという応急復旧の問題が復興計画にまで拡大解釈されて遅々として進まないことです。応急復旧という観点からは、とりあえず元の生活に戻すという考え方もあり得ると思います。


Q:災害の不平等性について、貧富の差はある程度なら解消することができるが、風土の東西問題を解消することは難しいのではないだろうか(おな)?
A:風土問題は、その民族の住居に対する嗜好性が関わるので、一朝一夕には改善されません。その材料を選択した必然性もあるからです。一方で、南北問題はどうでしょう。これも解消が難しいと思いますよ。但し、国民の教育問題が関わっていると思うので、風土問題も併せて改善できる可能性はあると思います。要は、国民の情報リテラシーを高めることにつきるのだと思います。



Q:災害による被害の格差は色々な情報の格差にあるということを今回の講義で強く感じた。地震の経験も情報の一つであり、一度災害を経験すれば対策を行い、経験がないと対策ができない。よって、自身の経験を共有できるようなことがあればいいと思った(おこ)。
A:指摘のことは災害文化の伝承という言葉で言い表されていますが、経験者による情報は極めて重要です。われわれもどうそれを記録し、そこから学ぶかが重要なことなのです。しかし、経験がないと対策できないということにはなりません(経験不能の災害は、一つ下のやと君の質問のようなことがあるからです。それに対する対策は、二つ下のうまさんの質問を参照して下さい)。


Q:歴史性と免疫性の話で、時代や社会が変化するにつれて災害も変化するとおっしゃっていましたが、現代の社会になってから、昔よりも災害に弱くなった点というのはあるのでしょうか(やと)?
A:ずばり都市災害です。講義でもお話ししましたが、未経験の被害です。確実に被害を巨大化させます。


Q:災害には色々な側面があることが分かりました。その災害と人間がうまくつきあっていくのに、どのような方法をとればいいのでしょうか。やはり、その土地に過去どのような災害があったか調べることは大事ですか(うま)?
A:過去の調査は基本中の基本ですね。しかしそれだけでは防災の研究は片手落ちなのです。人間社会と災害は表裏一体です。人間社会がどんどん変化していく今日、災害もどんどん進化していっていると言うことなのです。災害はいつも想定外。それに対してどうしたらいいのか。研究に対する想像力です。洞察力とも言えます。何が次に問題になるのだろうか、この一歩先を行く研究心が大切なのです。事実を見つめているだけでは災害に後れをとるだけです。


Q:危険の平等化といっても地震の入力の大きな地域はある程度の格差は仕方ないのではないでしょうか。地震に耐えられる建物をもっと早く増やすにはどうすればいいのでしょうか。やはり、それぞれの人の意識を高くすることが重要(かゆ)?
A:格差解消の一つの考え方として、ハザードの小さな地域に住む人の住民税(あるいは固定資産税)を高くし、その税金を使ってハザードの大きな地域対策を進めることは出来るのではないでしょうか。考え方は資本の再配分です。


Q:フラットスラブは日本ではあまり見られないのですが、それは地震に弱い工法だからでしょうか(はし)?
A:フラットスラブ工法は、梁を使わずに柱と床だけで構成する工法です。柱配置に自由度が大きいので、マンションなど、広い空間を確保したい場合などに稀に採用されるようです。

フラットスラブ工法はパンチング破壊の可能性が高いため、施工法に工夫が必要です。最近の研究では、ボイドスラブを採用し質量を小さくしてパンチングを防いだり、柱とスラブとの配筋に注意することで耐震性を高めることが試みられています。


Q:北海道がもうそろそろ500年に一度の大津波が来るっていう噂を聞いたのですが、本当でしょうか。また、自治体などは何か具体的な対策を検討しているのでしょうか(みた)?
A:正しくは500年間隔の地震ですね。何でもそうですが、「そろそろ地震が起きそうだ」という噂は、信じてはいけません。そろそろ起きるのではなく、いつ起きてもおかしくないというのが正解です。この度の地震で各自治体が被害想定の見直しを始めています。北海道はすでに500年間隔の津波被害については想定済みです。被害の大きさについては、今回の地震の調査結果を踏まえて見直すことに決定しました。去る、6月1日の北海道防災会議で決定です。


Q:日本の家は木造が多く、地震の死者は火災によるものが多いが、火災が減ると被害もかなり減るのですか(みは)?
A:なぜ火災が発生するか分かりますか。北海道南西沖地震では、津波により火のついた船が陸地に運ばれ火源となりました。阪神淡路大震災では、電気が復旧したときに倒壊した建物で漏電し火災が発生しました。最近の地震では、避難した後に火災が襲ってきています。そのため、死者に関して言うならば、都市火災では死者はそれほど多くは発生しません。20世紀の火災による統計データには関東大震災が含まれているために、火災による死者が多くなっているのです。


Q:自然災害の地域内格差を減らし、災害を減らすことはできないので、災害の均等化を目標にするという話がありましたが、今まで災害の少なかった場所の災害リスクが増えたりせずに均等にするということは、結局、「災害を減らす」と同じなのではないでしょうか(やた)?
A:災害をなくす(ゼロリスク化)ことはできない(目標にはならない)と言ったのです。災害を減らすことは可能です。しかし、自由経済の元でリスク低減を自然発生的に任せると、経済的に余裕のある人々は安全化を進めることが出来るでしょう(それにより、マクロ的には社会全体の安全化も進んだことになる)。しかし災害弱者はいっこうに安全な生活を手にすることはできないでしょう。そのような社会は、安全な社会と言えるでしょうか。スラム化社会となってしまうのではないでしょうか。危険の平等化は安全な社会の底上げを意味するのです。マクロ的に安全化が進んだとしてもバイアスが高ければそれは安全な社会とは言えないのではないでしょうか。災害の平等化と災害を減らすこととは同義ではありません。


Q:各地域や国によって住宅の違いがあり、構造もまた違っている。それらは長年の知識によって少しずつ変化したものだと思うが、これから先、住宅はどのように変化していくのかが全く予想がつかない。形が変わらず、構造だけが変化するのか、それとも今とは全く別の住宅となるのか、何か関連した情報があれば知っておきたいと思った。
A:住宅の変化が読めないと言うことでしょうか。恐らく、卒業して民間の建築会社に就職したとしても、また、建築行政に関わったとしても、その質問はいつも君に問いかけられているはずです。それを提示するのが建築家の役割なのではないですか。短期的(たとえば10年後)な住宅やライフスタイルの予測は、三菱総研などのコンサルが定期的に本を出しているので参考になるかも知れませんが、自分の頭でそして感性で、答えを追い求め続けましょう。


【2011年5月30日】
■第7回 地震の基礎
Pdf(地震の基礎 830kb)


Q:なぜこれだけ被害があると分かっていながら人間は日本列島に住み始めたのか不思議です(おあ)。
A:日本列島は断層だらけですね。そんなところになぜ住み始めたのでしょうか。そして、なぜ住み続けるのでしょうか。地震は災害を引き起こしますが、また、人類にとって恵みも与えてくれるのです。温泉や地熱などのリソースもありますが、高速道路の道筋を与えてくれてもいます。その辺の話は都市防災計画のところでお話しする予定です。問題は、自然の脅威現象とどうやって共生していくかです。自然力を過小評価した人工構造物・都市形成をする人間の行為が災害を醸成しているのです。


Q:地震学から予想される地震発生地域を発表したとしても、地域住民を早急に避難させる程(地震発生は)確実なものではないと思う。そのような場合は、実際に地震が起きたときの(事後)対策費などを確保するなどの(事後)経済対策しか行えないのでしょうか(こけ)?
A:この話は災害管理論でお話ししました。リスクは被害規模と不確実性の積(平面)で表されます。こけ君が指摘しているのは低頻度大規模被害(LPHC)のことですね。これへのリスク低減的対応は自然発生的には無理なのです。対費用効果がとても低いからです。この場合、社会からはリスクは無視されます。唯一の手段は、リスク転嫁です。一事業者ではコスト的に対応するのは無理なので、保険や共済により災害補償でリスクを別の形に変えることが最も現実的なのです。


Q:日本でも断層法が制定されれば被害も減ると思うのですが、制定までたどり着けない理由は何ですか(なよ)?
A:色々理由があると思いますが、断層法により建築制限をかけると、日本には公共建築物を建てる場所がなくなってしまうからかもしれません。カリフォルニアなどと比較して日本は利用可能な土地が狭く土地価格が高いということ、また既成市街地があり建築規制が困難であること、そして、活断層の周期が長いので経済的な犠牲を払ってまで規制をすることが困難であることなどが背景にあります。


【2011年6月13日】
■第8回 確率論的地震動予測
Pdf(確率論的地震動予測 320kb)
Pdf(耐震技術発達史 104kb)
Pdf(河角マップ 6.3Mb)

Q:Gutenberg & Richter式という元々は防災には使われていなかったような式がエルゴード性の仮定を用いて実際に使える式にしていった課程が興味深かった。防災における研究ではこのように日々様々な分野からの知識を集めているのでしょうか(あこ)?
A:地震学から生まれてきたモデル式や現象記述式は、防災に直結するので分かりやすいと思います。研究とは、よりアナロジー性の薄い分野からの移植も可能であり、それが研究発展の醍醐味でもあります。普段から関係性の薄いものどうしの共通点を結びつけることは普段の生活での頭の体操であると同時に、研究のヒントを知らず知らずのうちに見つけ出す訓練にもなるのです。


Q:安全率が3というのは工学的判断であると講義での説明でしたが、その詳細について教えて下さい(さけ)。
A:許容応力度設計において、荷重に対する断面の安全率についての話でした。安全率とは便利なものですね。しかしこの数値については誰もよく分かってはいないのです。耐震設計の大家・梅村魁の名著「耐震構造への道(技報堂出版)」には、「なんとはなしに、昔からそういう値をわれわれは使ってきた。」との記述があります。講義で言いたかったことは、理屈ですべてが決まっているわけではないと言うこと。我々の社会は経験則に頼っているところがかなりあると言うことです。


【2011年6月20日】
■第9回 確定論的地震動予測
Pdf(確定論的地震動予測 960kb)


Q:最近の研究では断層パラメータの数が増えかなり複雑化しているようだが、予想する要素が増えるなら計算量も増える。今後、さらにパラメータが増えるのか、それともより重要なパラメータを選択肢適当な数に制限するのか、どういう方向性が望ましいのだろうか(いと、ひし)?
A:断層パラメータが増えてくる必然性を工学が必要とする周期帯との関係で説明しました。短周期の地震動を説明するには断層面内の挙動が必要になってくるのです。なので今後、より短周期の構造物が出現するのであれば、断層パラメータはより増える方向にあると言えます。逆に長周期構造物に影響する波は断層の巨視的パラメータで大凡が説明されますので、断層モデルの単純化が進むかも知れません。


Q:Double Couple Forceのところで、「押し」は理解できたのですが、「引き」がよく分かりませんでした(さあ、まえ)。
A:図で説明しましょう。
プレート内部に圧縮力が加わったとき、その分力は断層の接線方向と法線方向のベクトル和で表されます。
下の図では、赤線と白線の組み合わせ(①の組み合わせと②の組み合わせ)が分力のペアです。見方を変えれば、赤線どうしでは時計回りのモーメントを与え、白線どうしでは反時計回りのモーメントを与えています。このモーメントのペアがDouble Couple Forceと言われるものです。
ここまでは良いですね。


では次に、なぜこの力のペアが押し引き分布となるのかを説明します。図の「引き」の部分に注目して下さい。図の奥側の「引き」の部分は、①の白線と②の赤線の力で引っ張られています。図の手前側の「引き」の部分は、①の赤線と②の白線でやはり引っ張られています。それに対して、図の左側の「押し」の部分は、①の赤線と①の白線で押されています。図の右側の「押し」の部分は、②の赤線と②の白線で押されています。分かりましたか?(Web用にファイル変換すると図が表示されないので、ここからダウンロードして下さい。)



【2011年6月27日】
■第10回 地盤増幅問題
  Pdf(地盤増幅問題 610kb)


Q:今回の震災(東日本大震災)において、千葉県浦安市などで深刻な液状化被害が発生した。浦安市は高級住宅街であるのに、土地がなぜ良好でなかったのか不思議だった。あらかじめ調査がされているならば、このような土地に高級住宅街を建設するのは避けるべきだと思うのだが(あこ)。
A:なぜ高級住宅地が液状化被害に襲われたのか、液状化危険度のみで住宅地の選定や地価が決まるわけではないからです。研究に依れば、災害危険度の高い地域は一般的に地価は安いのですが、それでもそれが第一要件ではないということです。交通の便や周囲の環境がその地域の価値査定に大きく働いているのです。ディベロッパーが雰囲気作りを先導し、災害危険度を無視して高級新興住宅街にしてしまう例もあります。これはかなり悪質と言えます。そのような風評にごまかされない賢い知識が国民には求められているのです。


Q:液状化が起こって体積収縮した場所はそのまま体積収縮した状態で、元に戻ることはないのでしょうか(さあ、こけ)?
A:液状化直後は排水されるので体積収縮したままですが、時間が経過するに従い元の状態(液状化しやすい状態)に戻っていきます。なぜなら、周囲の水位は変わらずに高いはずですし(水位が高い条件が取り除かれない限り)、液状化してもそこの地盤を構成している土壌自体は変化がないのですから(土を入れ替えない限り)。


Q:地表面の重複反射理論で理解できない部分があった。①変位の連続条件とはどういうことか、②変位を1回微分するとひずみになるという意味が分からない、③基盤面内の上昇波をU1、下降波をU1’、地表面内の上昇波をU2としたとき、U1+U1’=U2と言う考え方が分からない。U1=U1’+U2ではないのか(さけ)?
A:①地表面と基盤は密着しているから、地震時も密着した状態が保持されます(弾性論はそういう状態を仮定する理論です)。よって、変位も密着している部分(z=H;地表面をz=0としたときの基盤面までの深さはz=Hと表される)において、両方の変位は同じ(すなわち、変位が連続)ということを境界条件として与えたのです。
②ひずみとは、簡単にいえば単位あたりの変化量のことです。微分とは元の状態の変化量をいいます。よって、変位の1回微分は、ひずみとなるのです。
③君が指摘したU1=U1'+U2というのは、U1の時間変化を式で表したものですね。今問題にしているのは、変位の連続条件ですので、基盤の変位は基盤の中だけの動きを考えればいいので、上昇波U1と下降波U1’の和、すなわちU1+U1'で表され、地表面の変位はU2のみなので、それが等しいから、U1+U1'=U2となるのです。


Q:重複反射理論の話では、地面を地表層と基盤の2層構造で説明していたが、実際の地盤はたくさんの層からなっていると思うのだが(した)?
A:そのとおりです。今回は2層構造でお話ししましたが、これが多層になっても同じです。両者の境界面における波動インピーダンス比によって反射係数・透過係数が計算され、それぞれの層における上昇波と下降波の足し合わせで計算されます。


Q:軟弱地盤の地域で建物を建てるときは建物構造や階数(固有周期)を選択する必要があるように思いました。地震の頻発する道東の住宅が古いものでも倒壊する事例が少ないのは、基礎が深いからでしょうか(みか)?
A:道東地域は地面が凍上するので基礎を深くしなければ住宅金融公庫から建設費用を借りることができません。そのため、基礎が深いのですが、結果的にそれが耐震性を高める一要件になっているようです。道東地域はそれに加えて地震が多いため、耐震性の低い建物は既に過去の地震で倒壊してしまい、淘汰されたと言うことも理由として挙げられるでしょう。


Q:なぜ解放工学的基盤という考え方が必要なのでしょうか(やき、みゆ)?
A:地表面の揺れを計算するには、基盤における地震入力が必要です。地表面が載っている状態では、その地表面の影響で基盤における地震動が様々に変化してしまいます。よって、解放工学的基盤の状態で地震動を計算しておき、それを入力として実際の地表面が載った状態を計算します。このように、解放工学的基盤面における地震動は色々な地表面に使い回しができるので、便利なのです。


Q:波動インピーダンス比というのは、地表と基盤の堅さの比によって決まり、それにより地震動の振幅が変わってくるというのは理解できましたが、実際に同様のインピーダンス比なら、地表と基盤の絶対的堅さが柔らかい場合や硬い場合でも同じ振幅になるのでしょうか(やた)?
A:波動の透過係数と反射係数は波動インピーダンス比のみで決まりますので、地震波の振幅だけを問題にするのでしたら、理論上はそのとおりです。


Q:深い地盤で揺れが大きくなるところにゆれやすい高層ビルを建てるのは無駄というか、間違いだと思った(やみ、うま)。
A:本来、そういうものですよね。しかし、高層ビルが必要とされる地域は大都市圏であり、そこは大都市の形成理由(広くて平らなところ、水の得やすいところ)から厚い軟弱地盤が堆積しているところに一致するケースが多いのです。人は自然環境の危ないところに集住しがちなのです。支持層(工学的基盤)まで、支持杭を通すなどの注意深い設計が不可欠です。


Q:軟弱地盤が厚い程地震動は増幅されるということでしたが、地下空間が広くとられている建物と地階のない建物とで地震の影響に違いはあるのでしょうか(やと)?
A:正確には軟弱地盤が厚いとその地盤の卓越周期が長周期化すると言うことです。地震動の増幅は基盤と地表面とのインピーダンス比で決まります。
地階の有無は揺れ方に大きく影響します。その影響のことを地盤と建物との相互作用と言います。建物の基礎部分(地階部分)が、地震動を拘束し揺れが小さくなります。建物の精密な応答計算ではそのような効果も加味します。


【2011年7月4日】
■第11回 個と集団のリスク制御
  Pdf(リスク制御 1.7Mb)


Q:1質点系モデルの話で出てきた式はとてもシンプルで理解しやすいものであったが、実際の建物というのは複雑で式中のK(剛性)やD(減衰定数)といった建物固有の定数はどのようにして求められているのでしょうか(いと)?
A:設計段階で建築予定の建物をモデル化して応答計算する場合は、事前に定数を決める必要がありますね。残念ながら私はそのような現場に立ち入ったことがないので、ここでの回答は避けます。各種構造や構造力学で勉強して下さい。私が関わるのは実際に建っている建物の剛性評価や減衰評価です。この場合、建物の振動を実測し、固有周期からKの値を、またDについては常時微動を重ね合わせるRD法やパルス振動による建物の応答特性から求めています。


Q:液状化対策としてのサンドコンパクション工法やバイブロフローテーション工法のコストはどのくらいでしょうか(いじ)?
A:コストのこと、そんなに気になりますか?改良地盤の規模にも依るでしょうし、業者の違いにも依るでしょう。よく分かりませんが、土木工事に関しては、コストは人件費で決まるのではないでしょうか。言い過ぎかな。


Q:制振の考え方に興味を持ちました。マスダンパやAVSを使うのは、建物というより機械装置のようだとおっしゃる意味はその通りだと思います。マスダンパやAVSを使いつつも意匠的にもっと自由なデザインをする方法はあるのでしょうか(おあ)?
A:装置が意匠的に自由になるのかという質問でしょうか。名古屋市駅前に建っているモード学園の超高層ビルを知っていますか?
スパイラルタワーズという、建物全体にひねりを入れたような、デザイン最優先の建物です。そこにはアクティブマスダンパが採用されています。建築的にあれ以上に自由なデザインは見たことがありませんので、十分に意匠的に実行できているのではないでしょうか。ちなみに、アクティブマスダンパは一部屋分のスペースがあれば取り付けられます。
今回の質問は、どういう場合に「剛構造」と「柔構造」を使い分けるのかとか、「耐震」「免震」「制振」はどのような条件で使い分けるのかとか、どの構造形式が一番有効なのか、という質問が多かったです。構造が先にあって建物が作られることは滅多にありません。建物の建築計画が持ち上がり、その建設予定地に想定される地震動を決め、そして構造が決まるのが普通のプロセスです。施主と設計士と構造技術士がコストパフォーマンスや施主の意向(デザイン的意向や機能的意向や、たまに構造的意向)を踏まえて、その条件下で最適な構造形態が話し合いで決められていくのです。一般的にはコスト的に[耐震]で構造設計する方が有利ですが(特に小規模建物は)、揺れに対して慎重な設計をするには制振や免震を考慮することになります。基本的に制震のほうが安価であるため、コストを抑えるならば制震を使うほうが良いでしょう。しかしその効果がはっきりしないため、最近は制振のみの構造ではなく、免震と組み合わせて採用されることが多くなってきました。また、免震のほうが基本的には家具の転倒率などが低いため、絶対に倒れてはならないものを扱う建物などは免震のほうがいいかもしれません。この程度に考えておいて良いでしょう。


【2011年7月11日】
■第12回 都市防災の基礎
  Pdf(都市防災の基礎 173kb)
  Pdf(災害史ダイジェスト 13Kb)


【2011年7月25日】
■第13回 人的問題とモニタリング
 Pdf(人的問題1 2.6Mb)
 Pdf(人的問題2 2.4Mb)


【2011年8月8日】
■第14回 期末試験


⇦講義用ホームページへ戻る                                           ⇧ページ上部へ戻る