2014年度版 地震工学テキストダウンロードサイト

講義資料をこのサイトから配布します。各自ダウンロードし、講義に持参のこと。
その他、休講案内などもこのサイトを使いますので、逐次チェックのこと。
このサイトの配布資料のダウンロードは終了しました。

What’s New:
◆7月25日
第7回・第8回・第11回の学生質問に回答しました。
◆7月23日
第9回と第10回の学生質問に回答しました。
◆7月16日
第5回と第6回の学生質問に回答しました。
◆7月9日
最終講義資料をアップしました。5ファイルあります。
時間の制限があり全てを解説することはできませんが、資料を良く読み込んでおいてください。
◆7月3日
第11回講義資料をアップしました。
◆6月26日
第10回講義資料をアップしました。
◆6月20日
第4回の質問票に回答しました。
第9回講義資料をアップしました。
◆6月13日
第8回講義資料をアップしました。
◆6月5日
第3回講義の質問票から、代表的なものについて回答をアップしました。
第7回講義資料をアップしました。
◆5月22日
第6回講義資料をアップしました。
◆5月17日
第5回講義資料をアップしました。
◆5月8日
第2回講義の質問票から、代表的なものについて回答をアップしました。他の人がどのような質問をしているのか、この点にも注目しましょう。
何も質問しない学生は欠席扱いとなりますので注意するように。
◆4月28日
第3回講義資料をアップしました。
◆4月17日
第2回講義資料をアップしました。
4月7日
参考図書を紹介。


【2014年4月7日】
■第1回 導入
参考図書を紹介します。
・小野徹郎編著:地震と建築防災工学、理工図書
以下のページにアクセスしてみて下さい。研究作法が紹介されています。
・研究者の書棚(日本自然災害学会HP/自然災害科学/)
http://www.jsnds.org/contents/shizen_saigai_back_number/
Vol25,No4,2007


【2014年4月21日】
■第2回 工学と防災
現今、STAP細胞の存否の議論から科学の方法論が問われている。我々は建築工学を生業としている。工学も科学の分野の一つであるが、根本的な違いはその目的にある。工学は何を目指す学問なのであろうか。ここを初歩の段階において自分なりの回答を持ち得ていないと、何のために何を目的に設計したら良いのか、大いに悩むことになる。
本講義では、科学とは何か、工学の方法論とは、建築は何を目指すべき学問なのか、それを考える素材を与える。
Pdf(4.2Mb)

学生からの質問に答えます。
Q:幸福度の指標軸はいくつあって、それは具体的に何だと思いますか(あさ、いあ、すけ)?
A:建築工学が研究や設計、開発、施工などの行為の結果として求めるべきゴールを、一言で「幸福度」という言葉で表現しました。幸福度にも様々な見方があり、何を重要視するかは個人の価値観や企業の立場など、それぞれの持ち場・立脚点によって変わるのが当然です。なので万人共通の幸福は、定義不可能だと思います。そのことが、建築を含む工学の行為に矛盾を引き起こす要因となっています。言い換えれば、自己矛盾しない幸福というものはあり得なく、それを求める工学に終わりはない・工学がたどり着く究極のゴールはないのです。工学が創り出すべき目標物はいくらでも存在すると言うことです。
 さて、私が考える[建築工学における幸福度]とは、「構造性」「利便性」[快適性]「表現性」「経済性」そして「福祉性」です。それぞれに含蓄のある難しい言葉ですが、福祉性について少しだけ補足しておきましょう。福祉とは、個人が求めるべき「継続的安心」が公的配慮によって整えられることを言います。また仮にそれが損失した場合、それに代わる何らかの補償がなされることが確定していることを言います。この福祉性によって、はじめて、安寧が保証されると言えると思います。


Q:近年、地震の起こる確率など注目を浴びていますが、これはモデル化された今までの事例から割り出されているものであり、信用性は高いものではないのでしょうか(いり)?
A:地震は繰り返しの時間が長いため、統計学が通じるほどにデータが蓄積されていないのです。従って、色々な資料を組み合わせて発生確率を算定しますが、一般にその信頼性はあまり高いものではありません。よって、リスクマネジメントのみの対策は危険なのです。起こったときのクライシスマネジメントも用意すべきです。クライシスマネジメントは何を優先し何を諦めるかという、非常に辛い意思決定問題でもあります。なので、強いリーダーが求められるのです。


Q:モデルを見つけたり、作ったりする方法はあるのですか(よみ)?
A:工学の方法論は現象をモデル化し、それをシミュレーションすることで将来を予測したり(地震被害想定など)、最適条件を見つけたり(耐震法規設定や機械設計など)することです。モデル化することが工学を進める上で重要なステップとなります。ではその方法は、と問われると、一般論で示すのは難しいですが、私の場合は、どのように考えるとその現象は説明できるか、そのメカニズムを突き詰めて考えることで、モデルの骨格はできあがっていきます。


Q:防災学において過去に工学がおかした大きな過ちの例とは(あし)?
A:過ちというのは定義が難しいですが、防災対策をしたことによりしなかった場合よりも被害が大きくなったという例は、知りません。思ったよりも効果が少なかったというケースはままありますが、それは過ちとは言えないと思っています。むしろ、災害を偶然の事象として捉え、そこから学ばずに何も対策をせず同じ災害を繰り返すことが過ちと言えるでしょう。


Q:工学はモデル化してからシミュレーションしなくてはなりませんが、防災の分野において、人が災害から逃れるとき、そんな人々の動きをモデル化できるのでしょうか(せあ)?
A:大地震のように周囲の状況が過酷になると、人間は同じような行動パターンをとるようになります。なので、個々の意思が働く自由行動は少なくなり災害環境で行動がパターン化できるのです。


【2014年4月28日】
■第3回 災害管理概論
前回の続きで、地震防災の岡田流整理学です。講義でもお話ししましたが、人生をリスクという切り口で見ると、人生リスク論という講義としても聴講できます。講義中に紹介する諸々の本もチェックしてみて下さい。
Pdf(1.7Mb)


学生の質問に答えます。
Q:地震と共に暮らす必要性は分かったが、作っては壊されるということを繰り返すことが良いことだとも思えないがどうでしょうか(なゆ)?
A:スクラップ&ビルドの良し悪しについて講義では触れていません。日本の文化として景気回復にスクラップ&ビルドが欠かせなかったと言うことです。このような社会構造をフロー社会と言います。しかし、現今、このようなことに批判的な意見も出始めてきています。ライフスタイル・ライフサイクルの長寿命化を目指すべきだという意見です。このような社会構造をストック社会と言います。防災的観点から言うと、私はストック社会でなければ防災が経済合理性を持つことはなく、防災投資の効果が広く世間に認められないという意見です。フローからストックへ、「言うは易し。されど行うは難し。」社会的合意形成が必要です。


Q:都市間波及に関連して、東京では、都市機能のバックアップを他所へ作ろうとする計画があったと聞きましたが、札幌ではそのような話は無いのでしょうか(いか)。
A:バックアップは行政のみでなく、個人でも行うべきです。地震対策のみではなく自分のリスク管理として必須事項です。あなたはバックアップしていますか?講義を地震防災としてのみ聞くのではなく、自分自身の問題として受講して下さい。


Q:トレードオフについて、防災においては、安全性を考えておけばある程度安心して幸福度は上がると思うのですが(かれ)?
A:防災は災害を防ぐ学問なので、防災にとり安全は幸福度第一位のものとみなせます。よって、防災の観点では安全と幸福とは同一と考えて矛盾しません。講義で指摘したことは、世の中は防災だけで意思決定されるほど単純ではないということです。今正に議論となっているのが、原発の再稼働問題です。原発のもつエネルギーの功利性と危険確率とがトレードオフになっています。


Q:日本の文化は災害を境に発達してきたと仰っていましたが、東日本大震災後はどのような文化が発達すると思いますか?(震災後、3年たってもあまり変化が感じられないのですが)(すけ)
A:(当研究室M1学生の回答)例えば、東日本大震災を境に家族への強い思考がみられるようになりました。ワークライフバランスを改めて考え始め、家族やプライベートの時間を大切にする傾向が高くなりました。また社会貢献への意識も倍増したと言われていています。自分の人生を見つめ直し始めたのかもしれません。また、災害に対する考え方も大きく変わりました。今までの想定を大きく変える地震が発生したため、耐震免振の考え方も大きく変わりました。エネルギーに関する考え方、自分の住んでいる地域に対する考え方も大きく変わったと思います。今は変化が目に取れないかもしれませんが、遠い未来にはきっと震災をきっかけに変わったことが感じられると思います。

(岡田からの補足)社会の変化を感じ取るにはある程度のセンスが必要です。センスを磨くには教養を身につけることです。様々なことに興味を広げ、世の中の動き(社会的、政治的、倫理的、文化的、・・・等々)に敏感になって下さい。そのためには本を読むこと、新聞を読むこと、映画を見ること・・・、あらゆる情報源に目配りしてみることが大切です。


Q:日本は災害とともに歩み進んできたという言葉は印象に残っています。リーダーが育たないのもうなずける内容でしたが、どのような国や地域ではリーダーが育つのでしょうか(すこ)。
A:民衆の動きを統一する必要性が出てきたとき、民衆はリーダーの出現を待ち望みます。


Q:地震に関する防災において、建物の倒壊などハードな面も大きくあると思いますが、人間の心理的要因も大きくあると思います。そんなソフトな面に対して、建築ができる防災とはいったいどういうものがあるでしょうか(せあ)。
A:建築防災のソフト的な面は、人間心理だけに限りません。指針・規準・法令と言ったルールづくりもソフト的防災の一種だと思います。新しい価値観の提案もそこに入っています。私の所の研究室はそこに存在意義を求めて研究に励んでいます。


Q:動物は地震予知行動等、いち早く危険を察知する能力があるにも関わらず、人間にはない。同じ動物であるのに、人間はどこで失ったのか(どゆ)。
A:動物の地震予知行動は、科学的裏付けがないので日本では地震愛好家の範疇と捉えており、日本地震学会では完全に亜流となっています。地震直後に、メディアが「数日前からカラスが騒いでいた。」などの類のことをニュースとして取り上げたりもしますが、カラスは普段からうるさいですよね。中国ではまじめに取り組んでいるらしいとの噂を聞いたことがありますが、さてどうでしょうか。


Q:社会が情報化していく中で情報は時には物理的なモノを越える存在になりえていると思う。また自然や災害があったからこそ現在のような日本が存在しているという考え方もできるのかと感心した(ごゆ)。
A:情報を制する者は世界を制するとまで言われています。中国が国防関係からOSにMicrosoft社の導入を辞めたことは、情報の重要性を如実に物語っています。誤った情報操作の持つ危険性にも気づくべきでしょう。
歴史を自然現象から読み解く研究領域もあります。史観といわれる社会学分野に理系研究者が挑んでいます。


【2014年5月12日】
■第4回 リスク制御の方法
講義内容は、第3回の続きです。
質問票に回答します。


Q:リスク保有できる条件(指標)はあるのでしょうか(こけ)?
A:リスク対策に絶対的正解はありませんので、それぞれに考えるべきテーマです。為政者はその政策を提示する際に、説明責任がありますので、リスク保有した場合にはそれなりの理由が必要です。しかし現状では、LPHCに対しては為す術なし(あるいは経済優先の結果オーライ)からのリスク保有選択が優先されているように感じます。


Q:原子力問題や最大津波問題などに岡田先生は世論には追随しにくい意見をもっていると仰っていましたが、自分の知識を深めていくためにもぜひご教授願いたいです(すけ、せあ)。
A:私は、現状でのマスコミ(主として朝日新聞と毎日新聞)が論じている原発廃止論(短期的安全論)には反対です。私は経済界が主張する景気浮揚論からではなく、技術論的観点から原子力擁護の立場を主張します。なぜなら、マスコミが廃止論を声高に主張する風潮を作り上げてしまうと、若者は原発技術に興味を抱かなくなってしまうことが危惧されるからです。数10年先にやってくる廃炉問題に対処できる人材が育たない風潮を作り上げている。今危険とされている技術でも、将来必ず必要とされる技術です。太陽のエネルギーを制御する技術を棄ててはいけない。マスコミの議論には時間軸のない似非環境主義の臭いがします。ちなみに、私は朝日新聞を購読しています。


Q:重大な災害時にはリスクマネジメントではなくクライシスマネジメントを考えるべきであるとおっしゃっていましたが、その際、LPHCの極大×極小の値は限りなく0に近くかないのでしょうか。何か別のマネジメント方法が適用されるのでしょうか(すこ)?
A:LPHCはリスクマネジメントの問題です。未だ発生していない危険を発生確率(LP)と起こった場合の被害程度(HC)で議論するものです。LPは極小(0)へ漸近するし、HCは極大(∞)へ漸近するものなので、その漸近速度によりLPHCの極限は0または∞となりますが、すこさん指摘のように0を選択しリスク保有を当面の対策としている現実は確かにあります。しかし、これでは無策に等しい。クライシスマネジメントの立場を優先させてはどうかというのが私の主張です。クライシスマネジメントには発生確率は入ってきませんので、上述のHC→∞となってしまいますが、そのときの災害シナリオ(条件付きとなることは避けられませんが)を作り、それに対する対応を多重で考えておく必要性を強調しておきたいのです。


Q:東日本大震災のとき、市町村も被災して機能しなかったために都道府県に要請できず行政の支援が遅れたとおっしゃっていましたが、東日本大震災以前の災害時には同じようなことがなかったのでしょうか。なぜ想定できなかったのかと思って疑問に感じました(たは)。
A:災害時の他自治体からの業務支援についての質問ですね。支援は要請されてから行動開始するのが、原則です。しかし、被災地の混乱状況を考えれば、要請→支援の構図がうまく働かないことは明らかですし、実際に兵庫県南部地震の時に判明しました(当研究室もその指摘を調査研究レベルで明らかにしています)。その後、この問題を解決するために地方自治体間で応援協定を結び、被災地からの要請なしで支援することが法制上可能となったのですが、この協定を全国的レベルで行おうという動きには未だ至っていません。やはり平時の行政業務においては縄張りを超えて他の業務に口出しすることは、業務遂行の規律が乱れるので最もやってはいけないことだからでしょう。しかし緊急時においても平時のルールを適用するのは問題ありとの認識が高まってきています。東日本大震災の教訓を得てどうなるか、これからの行政の動きに注目しましょう。


Q:都市の回復力とは何なのか(つあ)?
A:都市の回復力とは、さて何でしょうか。早く復興する力であることは間違いないのですが、都市を考えた場合、なにをもって回復と言えば良いのでしょうか。そして、その回復をもたらす都市の力とは具体的に何でしょうか。色々あると思います。人材や資力の豊富さ、そして国民から早く回復してもらいたいと思わせるその都市の魅力が、ひょっとして一番なのかなとも思っていますが。皆さんも考えてみて下さい。


Q:昔から自助互助奉助という言葉があったのに阪神淡路大震災の前では全く自助の意識がなかったということにはどのような原因があるのでしょうか?関東大震災等それ以前の大地震でも行政の対応もほとんどかわらないものだったのだと思っていたのですが、それが間違っていたのでしょうか(やゆ)?
A:上杉鷹山の自助・互助(共助)・奉助(公助)は、奉助に力が入った言葉です。藩主とは、国家と人民を私有するものではなく、民の父母として尽くす義務がある、という藩主の私有を戒めた戒律です。役人はこうであらねば成りませんね。阪神淡路以前は、それが強く反映され災害は公が何とかすべきものという意識が蔓延していたのでしょう。自助の観点からの対策がおろそかであったということです。しかし、今、自助が強調されすぎているように感じます。講義でもお話ししましたが、対策=自助☓共助☓公助のかけ算で成立するものです。どれか一つでも0になってしまうと、対策は機能しないということにもっと強調すべきです。


【2014年5月19日】
■第5回 災害の性格
災害の特徴を学びます。今回は補足解説が多い。
(1)偶然性もその一つです。偶然性を扱う数学的解析手法に確率過程があります。
(2)伝統的和風建築の特徴を保存した耐震補強の方法についても解説します。その理論は振動解析から導かれます。
(3)風土性の強い日本は防災技術にも色々なところで生かされています。
Pdf (1.9Mb)


Q:地震が来た時、札幌の揺れやすさは全国的に見て、どのくらいですか(かた)。
A:地震動の全国比較をマップ化したものが地震係数Zだと思えば良いでしょう。


Q:破壊の起きないようなフラットスラブにする方法とは具体的にどういうものですか(あい、かけ)。
A:スラブに管を入れるなどして軽量化する工夫が為されています。


Q:災害には不平等があるとのことでしたが、それを解決する手段はありますか(きと、すみ)。
A:考えてみて下さい。日本の将来を担うあなたたちへの宿題です。


Q:日本が被害額も死者数もだんとつでした。日本の基準を満たした安全な建物であれば、他の国で同レベルの災害が起きた時と比べると死者数が少ないはずです。これは日本で起こる災害が大規模であるということですか(こけ)。
A:1回当たりの被害は確かに少なくなってきてはいますが、突如として大被害をもたらす災害が発生しているのが日本の特徴です。これを災害の意外性と言います。日本の構造が都市化していることも一因でしょう。これに少子高齢化が加わるのがこれからの日本です。将来どのような形の災害が発生するのか、非常に気になるところです。


Q:減災のための方法はさまざまなものがあると思いますが、その地域に貧富の差によって解決できる地区と出来ない地区が出てくると思います。根本的な解決策はやはりないんですか(すけ)?
A:何か一つを解決すると、災害は次のステージへと進化していくものです。これを災害の歴史性・免疫性と言います。災害は我々の社会の形態と共に変化するモノであることを理解しましょう。


Q:今日の講義の中で、私は住宅形態のグループ化のところにもっとも興味を持ちました。災害と構造様式は密接に関係していると思うのですが、気候風土に適した建築様式と災害に対する構造様式は必ずしも一致しないのでしょうか(ごゆ)?
A(M1たは):伝統的建築は気候風土に適した建築様式で構成されており、その土地で起こり得る災害にもうまく対応できていると言えます。しかし、経済性などが考慮され品質に差が出始めると、災害への建物の耐力なども低下してしまうことに繋がるでしょう。

(岡田補足)良い質問ですね。それに対してのM1の解答もすばらしいです。


【2014年5月26日】
■第6回 地震の基礎
地震動入力をハザードと言います。ハザードの評価方法には確率論的方法と確定論的方法がありますが、その前段として地震に関する基礎知識を学んでおきましょう。内容は地学ですが、建築工学と深い関わりがあります。その知識だけを使っても防災対策は生まれます。
Pdf (650kb)

今回の講義は、理学的な地震の話が主だったため、質問も低調でした。


Q:緊急地震速報は役に立っているのですか?
A(M1たは):震源からの距離により地域によって速報から地震発生までの時間に差がありますが、被害軽減に向けて有用な情報であると思います。しかし大変わずかな時間であるため、日ごろからその時間帯に何をすべきかを想定していない場合は何の意味も持たない時間となってしまうでしょう。研究成果や新たな技術をどのように実生活に結び付けていくかを考えることは今後の課題と言えるでしょう。

(岡田補足):役立つというのは、それを利用しようという意図を持った人のみが判断できる言葉です。利用しようと思わない人にとっては、役には立たないものです。全てについて言えると思うのですが、それを何らかの形で利用しようという態度が重要なのです。


Q:ふと思ったのですが、地震の源って火山活動であったり地殻運動だったりしますよね。そうすると火山活動の源などが気になってきます。そしてその源の源…という風に辿っていくと最終的には何になるのですか?
A(M1おり):火山活動も、地震活動も、プレートの沈み込みによるものなので、火山活動のせいで地震が起きるわけではありません。現在のところ、地震と火山噴火の関係は証明されていませんが、大地震の後に火山が噴火することは多く見られるので何かしらの因果関係はあるかと思います。

(岡田補足)火山性群発地震というものもあります。この場合は、プレートによる断層破壊というのではなく、マグマ上昇によるグラーベンシステムが地震発生のメカニズムになります。


【2014年6月9日】
■第7回 確率論的地震動予測
地震(工)学からの防災のあり方を講義します。耐震設計と非常に関わりの強い分野です。基礎的な知識として、応力-歪み、力(剪断力)が必要ですが、第10回予定の耐震設計のところで復習します。
Pdf (320kb)
自習論文「河角の論文」は以下からダウンロードできます。
Kawasumi (6Mb)


Q:河角マップで0.7とか0.8とかの地域がありましたが、0.1違うとそんな違うものなのか。
A:入力の大きさにかけ算する係数ですから、0,7で30%減、0.8で20%減です。


Q:Gutenberg&Richter式(G/R式)と石本・飯田の式・河角マップの違いがよく分かりませんでした。特にG/R式は具体的に何に活用されるのか?
A:G/R式はサイスミシティの式であり、その地域で発生する地震の発生確率を表しています。石本・飯田の式はハザードの式であり、その地域が揺すられる揺れの大きさに関する発生確率を表します。河角マップは歴史地震資料を用いた日本付近の具体的な地震ハザードマップのことです。


Q:地震によって加わる力で、2割で計算するというのはどうしてですか?またこれはどのくらいの規模の地震を想定しているのですか?
A:重力の2割程度が地震力として働くという仮定です。あくまでも仮定であり、それで十分というわけではありません。その程度の地震に対しては構造物は弾性体として挙動させる(その程度の地震では壊さない)という考え方です。


Q:震度法と層せん断力法は同じようなものですか?
A:震度法は外力(地震力)を定義し、それに耐えるように設計する方法。層剪断力法は応力(層剪断力)を定義し、それに耐えるよう設計する方法。


【2014年6月16日】
■第8回 確定論的地震動予測
話は一挙に進みます。Hazardに関わる3要素の内の「震源問題」と「距離減衰問題」についてお話しします。地震波が初めて登場します。これは弾性論が基礎知識として必要ですが、それについては、次回の地盤震動のところでお話しする予定。今回は、サラッと触れる程度。今回は力学で震源問題を理解して下さい。今回の講義の内容は、集団のリスク制御(都市防災)の基礎知識を与えるものです。建築と関係ないとは思わないで下さい。
Pdf (2.3Mb)
参考文献もアップしておきます。
Pdf(岡田・戸松(2000),900kb)



Q:スペクトルには様々な利点がありますが、欠点などはありますか?
A:スペクトルは波の特性を周波数領域で眺めるという見方であり、時刻歴と対となるものです。処理方法ではありませんので、利点・欠点という話ではありません。スペクトルを求める方法として様々なものが提案されており、それらについては方法論としての利点・欠点は持っています。Aさんの特徴を言うときに「彼の身体能力を計ることの利点と欠点は何でしょうか?」と言うような質問ですね。身体能力の測り方には色々な方法があり、その方法自体には身体能力をうまく測れるかどうかという利点や欠点はあるわけですが。


Q:断層モデルは段々とかわってきていますが、これからもずっと変わり続けるものなのですか。まだまだ学問としてわからないことがあるからこれほどまでに変遷があるのですか。
A:物理学一般について同じことが言えるのです。真実などと言うものは、およそ人間には計り知れないことなのです。このように考えたら説明が付くというものが、法則としてみんなが合意していると言うだけの話です。それで説明が付かない事例が一つでも発見されたとき、法則は間違っていたという結論になるし、提案されているモデルですべての現象の説明ができないから、色々なモデル提案が為されているのです。


Q:短周期はなぜ理学的な視点からは注目されないのか?
A:地球物理学的現象にはそれほど短周期の振動現象が無かったと言えるかもしれません。理学は現象の単純化により原理的法則性を導く学問です。短周期はノイズとして扱われていたと言えましょう。


Q:波の距離減衰で距離が離れるごとに誤差が大きくなる原因の一つに、震源から観測地点までに波が経過する地層の質の違いによって吸収されたエネルギーに差ができるからというものがありましたが、地層を調べることで、どこでどれだけのエネルギーが吸収されるかを予測し、誤差を修正することは可能ですか?
A:地震波の伝播モデルの考え方の違いです。距離減衰式は観測点と震源との間の媒質の平均的特性をパラメータで表現するものなので、距離が大きく離れるほど、その平均値から乖離する部分が多くなっていくという話です。媒質を平均的に表さずに、複数で表現しているモデルもあります。この場合は、複数の地層を調査する必要があります。


Q:レイリー波は伝播速度が位相速度よりも遅くて、位相90°ずれた波と合成されるが、90°ではなく180°ずれた波と合成し、なくなったり減少したりすることはないのか。あまりないと思うが、同時に二点で地震が発生しうまく位相が180°すれたら実際に揺れなくなるのか。
A:位相差は種々存在します。地表面では90°ずれますが、深さと共にその位相差は大きくなり、あるところから回転は逆転します。位相差は全て同一と言うことではありません。深さに応じて位相差が異なるので、波が打ち消し合って消失することはありません。


Q:日本では点震源が多いのに対して米国では線震源が多いという違いは速報性などの理由以外に国土の広さや地震の多さも関係しているのでしょうか。
A:震源の考え方を誤解していますね。日本では点震源が多いというのではなく、点震源としてモデル化することが多いと言うことです。同様に、米国では線震源が多いというのではなく、そのようにモデル化するケースが多いと言うことです。米国は内陸に断層があるケースが多く、線震源としてモデル化しないと、地震動や被害をうまく説明できないと言うことです。


Q:地震についてここまでわかっていても未然に防いだり揺れを抑えることはできないんでしょうか?
A:「理解すること」と「制御できること」とは異なります。震源パラメータの中に、人間が自由に制御できるものはありますか?たとえば、地震の規模Mに関わるのは断層面積ですが、断層面積を人間の力で小さくすることはできると思いますか?できないことは明らかですね。ということは、揺れを抑えることなどできないのです。その他の方法、たとえば、地盤の増幅特性(これについては、次回説明予定)はハザード(地面の揺れ)に関わる要因ですが、これを工学的な技術で抑制することはできます。


Q:波の減衰で、なぜ幾何減衰というのでしょうか。
A:幾何減衰は振動エネルギーが面的あるいは3次元的に幾何学的に拡散することに依る減衰効果を言い、粘性減衰は波が反射屈折等により振動エネルギーが熱などの別のエネルギ-に変換することに依る減衰効果を言います。


【2014年6月23日】
■第9回 地盤増幅問題
Hazardを決める最後の要因について講義します。その対策方法についても理解しましょう。色々なマップが登場します。その違いもしっかりと理解して下さい。
Pdf (3.7Mb)


Q:一度液状化した地盤は再び液状化するのでしょうか?
A:一時的には締まった地盤状態となりますが、元々が地耐力のない土で構成されており、水位も高いので、時間が経つと元のような液状化しやすい状態に戻ると考えられます。


Q:液状化する際、排水によって体積収縮が起こるのでしょうか。だとすると、通常時にも土の粒子間の水があり、有効応力が保てないように思ったのですがどうなのでしょうか(むけ)。
A(M1たは):土は粒子どうし引き合う力が働いており、その力で通常の土は粒子間に水を抱き込んでいます。地震時は地層にもせん断力がかかるため土の粒子間のつながりが切れ、粒子間に存在していた水が排水されるため支持力が低下し地盤沈下を引き起こします。


Q:ゾーネイションを参考にして都市防災に役立てている例はありますか(さひ)?
A:都市防災という限定的な活用例とはいきませんが、耐震設計の地域係数はゾーネイションそのものですよ。


Q:工学的基盤面の深さのオーダーでT=4H/Vから住宅や高層建造物に一番影響する深さが、10mや100mだと仰っていましたが、一番影響があるということはその深さに基礎的なものを入れているのですか(すけ)。
A:基礎は、強固な岩盤まで通す支持杭が基本です。ですので基礎の深さは岩盤までの深さと言うことになります。講義で解説したことは、それぞれの構造物に影響する地盤の卓越周期はそのオーダーの深さで決まると言うことです。現実に建物を建設する場合、その建物に影響する深さまで地盤情報を取得する必要があると言うことであり、実際の基礎をどの深さまで打ち込むかと言うこととは別の問題となります。


Q:振動インピーダンスκが1より大きい時、地表面での揺れが小さくなるということは、建物を建てるのに適した場所であると言えるのですか(なま)。
A(M1たは):その時は地震の揺れは減衰されると考えられますが、地下に柔らかい地盤があるということは砂や泥の地盤である可能性も有るため地盤沈下が発生することもあるでしょう。さまざまな要因の検討が必要となるでしょう。


【2014年6月30日】
■第10回 単体の被害制御(耐震設計論)
ようやく前回でHazard関係が終了しました。今回から上物の被害(Vulnerability)について講義します。しかしすでに、第4回のリスク制御の講義で基となる考え方についてはお話ししているのです。Hazardを理解した上で被害の話を聞くと、また、新たな発見があると思います。今回は建物の耐震設計が主たる内容となります。よって、第7回で触れた「力」についても復習となります。今回は構造設計の最も基本的な考え方についての講義であり、これまでお話ししてきたHazard(地震学・地震工学・地盤工学)との関係が明確になるはずですので、その当たりにも注意して聴講して下さい。
Pdf (1.6Mb)
Pdf(木質構造 290kb)


Q:せん断破壊のメカニズムのお話でどうして斜めに力がかかるのかがいまいちわからなかったのでもう一度説明してほしいです(こし)。
A:これは構造物の安定・不安定の話になります。圧縮力にしても引張力にしても、材料の不均一性により軸方向に対しずれることが多くあります(と言うよりも、殆どがずれます)。その時力は斜め方向に働きます。


Q:壁量設計法で筋かい1本なら1.5、2本なら3.0とありましたが、根拠がよくわかりません(こけ)。
A:実験による結果です。


Q:免振も耐震もかなりお金がかかると思うのですが、どちらが効率的なのですか(すけ)。
A:考えてみれば当然ですよね。最も良い解があれば、それに収斂するはずです。色々な解があるということは、どういうことでしょうか。最適解が見つかっていないと言うことです。


【2014年7月7日】
■第11回 集団の被害制御(都市防災の基礎)
今日の講義は都市防災に関わる問題を扱います。被害認定の方法、被害評価の方法、リスクマップの利用法、都市火災対策。単体防災との違いを理解して下さい。
Pdf(リスクマップ 3.6Mb)
Pdf(都市防災論 173kb)
PPTの解説を聞きながら配布資料の災害史の穴埋めは講義時間中には無理なので、以下にアップしておきます。
Pdf(都市災害史 1.4Mb)


Q:被害認定において全体判定と部分判定を分けて考えることの意味は?
A:被害認定は損得が絡みますので、誰も文句のつけようのない判断が理想的には求められます。そうなると、必然判定方法は細かくなり部分判定に近くなってきます。全体判定は大雑把なのですが、それに依らざるを得ないと言う状況(被害規模が大きい状況)が発生しているわけです。そうそう理想どおりには世の中動いてはくれませんよという話です。


Q:被害想定、シミュレーションというのは想定し直すべきタイミング、スパン等はありますか?
A:被害の発生メカニズムを考えれば自然と分かりませんか?地震の発生確率が変わったとき(すなわち、大きな地震が発生したとき)とそれを受ける都市構造が変わったときです。10年も経てば、様々な環境が変わると言うことです。


Q:地震などの災害において救助する優先順位や被害を減らす考え方について正解はないと思うのですが、どういった考え方で決めていくのですか、またその他への配慮や対応はあるのですか。
A:災害発生時において誰を助けるかというのは究極の意思決定問題となります。全員が助けられないのであれば、将来のある人から助けます。その順位は幼少児>妊娠可能な若い女性>若い男性>高齢者の順序となっています。しかし実際には、手近な人から救助しているようです。


【2014年7月14日】
■第12回 都市防災の基礎
前回時間切れとなった部分です。都市防災が対象としているのは、基本的に都市延焼火災です。そのための予防型対策と発災対応型対策が日本の都市には具現されています。都市計画的手法で地震防災をどのように実現しているか、その実例を紹介し、都市防災の原理を解説します。


第13回 防災政策論
本講義シリーズで抜けていた部分がありました。1995年阪神淡路大震災後にわが国の防災体制は大きく変わりました。時間の関係上詳しくは入り込めませんが、重要な事項ですので配布資料を良く読み込んでおいてください。
Pdf(防災政策論 400kb)
Pdf(誤った防災活動 1.8Mb)


■第14回 人的問題
建築は人を過酷な環境から守るためのシェルターとして誕生しました。そのシェルターが逆に人に災禍を与えています。建築に関わる人的問題こそ、建築の根源的問題です。当研究室の主題でもあるテーマを、残された時間の中で解説します。
Pdf(死者の問題 4.2Mb)
Pdf(負傷者問題 3.4Mb)
そして、最後はモニタリングの話です。建築は空間をオブジェクトとする情報群と解釈することができます。これからの社会は情報を制する者がオピニオンリーダーとなるでしょう。建築の社会も情報という見方をより取り入れていくべき時が来るでしょう。そのための技術のあり方について論を興しました。配布資料を良く読み込んでおいてください。
Pdf(モニタリング 700kb)


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