2009年度 都市シミュレーション工学概論 岡田担当

第1講 地震防災とシミュレーション
自分・家族・地域コミュニティ・まちの安全原理と実践段階におけるシミュレーションの可能性について考える。
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地震発生のメカニズムと地震波増幅のメカニズムについて概説しました。学部であまり聞かない話だったのでしょうか、興味深かったという感想が多かったです。
いくつか質問がありましたので、簡単に答えておきます。
Q1:地域ごとに地盤や岩盤の種類により地震時の振動の揺れ方・継続時間が異なるというのは分かったが、大きな区間で地域を捉えたときにそのようなことが言えるのかが気になった。つまり、さらに地域を細かく分割していった場合に、振動の周期や継続時間に大きな差が発生するのかどうか。
A1:地震による震動は分割したブロックで揺れるわけではなく、地震波の周期や波長により、影響するブロックの大きさが異なってきます。たとえば、周期1~10秒程度の比較的長い周期に影響する地盤の深さは、数kmのオーダーです。また、周期0.1~0.5秒程度の比較的短周期の地震動に影響する地盤の深さは数10m程度のオーダーです。すなわち、比較的長い周期に着目するときは、地域を大きく(地盤を深く)ざっくりと扱い、その地盤を構成する物理特性を調査すればいいですし、短周期の波に着目する場合は、地域を小さく(地盤を浅く)精査する必要があります。

Q2:地盤の堅さによって波の速さが変わるのはどうしてなのか。音も波だというけれど、そのイメージがつかめない。
A2:波は伝達媒質(地震波の場合は地盤や水であり、音は空気)が変形(歪み)することで伝わります。変形のしやすさ・しにくさが波の速度に関係してくるのです。地震波でP波と言われているものは、媒質が圧縮伸張により伝わるものであり、音が空気中を伝わるのと同じメカニズムです。音は空気の密度(気温)により、速さが変わります。地震波も同じです。地震波でS波と言われるものは、媒質がずれる(剪断変形)ことで伝わる波です。媒質に摩擦がない場合(水のような液体)は剪断変形しないので伝わりません。ちなみに、P波の速度(Vp)とS波の速度(Vs)は以下で表されます。

ここに、ρは媒質の密度、λとμはラメの定数といわれるものですが、我々がよく知っている物理特性としてμは剛性率を意味し、媒質の堅さに直結しているものです。よって、地盤の堅さで波の速度が変わるのです。

Q3:人が家の下敷きになったりしたとき、どのように救助を行うのが適切なのだろうか。
A3:人が倒壊した建物に閉じこめられたとき、建物の構造種別により、生存時間が変わってきます。粉砕状に破壊する組積造の場合は12~24時間以内に救助しないと、生存率は激減するということが、経験上知られています。コンクリート造建物の場合は、1週間程度に生存可能性が延びます。この時間長さを救助の黄金時間(Golden time)と言います。救助には2つの難事業が待っています。一つは瓦礫の中のどこに人が埋まっているかを探し出すこと(Search)、もう一つは瓦礫の中から引っ張り出すこと(Rescue)で、その2つを合わせて、Search and Rescue(略して、SAR)と言います。Searchをいかに短くするかが、救助のポイントになっています。そのために、救助犬や救助ロボットに期待が寄せられていますが、一番は、近所の人たちの普段の付き合いによる情報です。どの時間帯に、誰が、家の中のどこにいるのかを知っている近所の人たちの情報で、阪神淡路大震災の時には、多くの人たちが早期救助されました。隣近所との付き合いは、いざというときに、威力を発揮するものです。

 瓦礫の中に閉じこめられた人を引っ張り出すときに気をつけなければならないのは、手足などを重量落下物で圧迫挫滅している場合です。クラッシュシンドロームとか挫滅症候群という言葉を聞いたことがあると思います。これは体の一部が長時間圧迫を受けることにより、筋肉が損傷を受け、その状態が急激に開放されたとき、壊死した筋細胞からカリウム等が血液中に大量に漏出する症状です。致死率が非常に高く、阪神淡路大震災やJR福知山線脱線事故の救出の際にも発症しています。瓦礫を取り除いたことによる発症ですので、素人では処置が難しいのです。

Q4:許容できる被害を小さくしようとすると防災のためのコストが大きくなると思いますが、これらの2つの妥協点をどのように見つけるのでしょうか。
A4:防災と対立する軸は、コストだけではありません。防災は環境に負荷をかける側面もあります。防災は個人のライフスタイルを受け入れない側面もあります。妥協点を探るというのも一つの方法論ですが、対立軸のベクトルを合わせていくことも考えるべきだと思っています。万人に受け入れられるための防災・社会に受け入れられるための防災は永遠のテーマかもしれません。私なりの一つの答えを次回の講義でお話しします。


第2講 地震防災と情報化社会
今般、我々の生活は情報を核とする新たなスタイルを模索し始めている。その中にあってかくあるべき防災の姿を考える。
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