都市安全学(2013年度)

2013年10月31日(木)14:40~16:10
第1講 工学的手法に隠された災害発生要因


Q1:私は現在就職活動をしており、工学の目標と企業の目標は似ているが異なると思った。工学は人々の幸せを目標としており、企業は人々に幸せを提供した上で自社のもうけというのを目標としている。
A1:マクロ的な考え方をとれば、企業の「もうけ」は従業員の給与に反映し、設備投資に反映しています。それらは社会経済の活力を生みます。巡り巡って国民の幸せに繋がると思いますが、どうでしょうか。ただし、このような考え方は市場原理主義とも言われています。この考え方がエキセントリックに突出してしまうと、[自ら]しか中心に考えなくなり、種々のものが存在することの社会的な費用(たとえば、自動車はモノやヒトを早く運搬する経済効果を生みますが、CO2を排出したり交通事故で死者を生み出したりなど、その補償に要する社会的費用は莫大であること)を計算しなくなってしまいます。結果的に、偏った自己愛が全体の幸せを否定することになりかねないことにも注意する必要があります。


Q2:幸福度の計算式について、個人間の誤差εはどのようにして求めるのか。
A2:個人間で幸福度の考え方が違うから誤差εが式の中に入っているのです。幸福度を一般化させるためのモデル式と考えて下さい。


Q3:工学を志望する学生が少なくなってきているという話。幼少の頃からか「工学」を連想させるモノに触れる機会(おもちゃ)が少なくなってきている気がする。
A3:そのように感じますね。近頃のおもちゃはボタンを押せば「何ができるか」が興味の中心になってきているような気がします。「なぜそうなるのか」というメカニズムに興味を持たせる機会を与えることが、工学に興味を持たせる上でも大切なのでしょう。


Q4:リスク制御の方法の話がありましたが、具体的な方法がちょっと分かりませんでした。
A4:今回の講義の趣旨は皆さんの頭の中に防災の思考軸を作り上げてもらうことです。具体例は次の講義からになります。具体例は理解する上で重要ですが、何でもすぐに具体例を求める姿は感心しません。まずは防災の哲学・倫理学を学んで下さい。


Q5:東日本大震災や阪神淡路大震災の場合、影響程度がかなり大きいが、発生確率はかなり低い。この場合、リスク管理よりも危機管理に重きを置くのが一般的なのでしょうか。
A5:どちらに重点を置くべきかという問には、正解はありません。講義でもお話ししたように、リスク管理には災害担当のリーダーの哲学・社会観が入らざるを得ないからです。発生確率は低くとも、その結果(Damage Impact)が甚大と予想されるのであれば、リスク保有は最悪シナリオとなります。それを抑えるための予算措置は重要でしょう。残念ながらいまのところ、極低頻度極大被害に対する対策としてはリスク転嫁しか手がないような状況です。


Q6:自然災害は発生確率をゼロにしたり低くすることは殆ど不可能に近い。被害規模を制限することは可能だが、ではお金をそこにかけると言うことができるのだろうか。
A6:では、それに予算が付くかどうかを危惧しているのですね。対策を予防という一軸で捉えていては、大規模予算に賛成は得られないでしょう。予防対策に別の付加価値をつけることを考え、まちづくりしていく方法論が求められているのです。


2013年11月7日(木)14:40~17:50
第2講 工学的手法に隠された災害発生要因(その2)


Q1:耐震改修促進法の問題点「弱者に対する配慮が感じられない」について、やり方があります。法律で10年に1回の改修をしなければならないとか、収入によって助成額を変えるとか、このような簡単な法法ではダメでしょうか。
A1:私の研究室では、改修の目標値を全国一律に1.0にするのではなく、改修コストと一世帯が出費可能なお金の額を条件に、もっと低い診断目標値でも死者は出さない改修ができることをシミュレーションしました。お金がなくても誰でもができる改修方法を提案していくのが本筋だと考えています。


Q2:国の被災者支援金の制度が国民一人一人が多額の貯金をしている前提で定められていることに驚いた。標準世帯の資産モデルでも場合によっては地震により生活が成り立たなくなることに驚いた。このようなことを認知して貯蓄している世帯はいったいどれほどいるのか疑問に思った。この問題の対策として耐震補強をすることだと挙げられている。耐震補強というのは自分の命だけでなく震災後の生活を守るためにも成ると言うことを再確認した。私が聞いた話では行政は住民に対して耐震補強をするように補助金を出してまで勧めている。しかしながら一般の人は補強を行わないと聞いた。こういった知識を小さいときから教育できると良いなと思った。
A2:その通りですね。今、一番必要な防災教育は、一般住民よりも、防災の制度を作る役人ではないかと思ったりもします。役人が素人的発想で法律を作るからおかしな防災がまかり通ってしまっているのではないでしょうか。


Q3:大阪府では先日、国の想定の10数倍にもなる独自の被害想定を公表していました。ここまで違うとただ人々の不安を煽るだけになってしまいます。そもそもそんな想定を一般人に公表する必要があるのか、疑問に思う。「こんな地震が来たらどっちみち・・・」と諦めてしまう人がいるような気がしてなりません。個人の努力で防げる範囲は非常に限定されています。
A3:その通りだと思います。被害想定結果の公表が住民への「脅し」のみでは対策の放棄に繋がります。「脅し」=「認識(気づき)」。そしてその次のステップ「理解」→「評価」→「実践」までと教育していくことが必要なのです。


Q4:建築規制緩和で日本はアメリカの要求を渋々受け入れたというように聞こえましたが、日本は本当にノーメリットで要求を受け入れてしまったのかが気になりました。
A4:規制緩和はデメリットだけではありません。選択肢が増えるメリットもあります。その結果安全が過小評価されてしまうことが問題なのです。


Q5:地震予知について,今はどういう手段がありますか。
A5:地震予知は次に3つが予測できなければなりません。
①地震の規模(マグニチュード)
②地震の発生場所
③地震の発生時間
現在の地震学の実力では③については確率でしか評価できませんので、時間を特定できません。従って地震予知はかなり難しいと言えます。少し前までは東海地震についてだけは前兆現象を捉えて予知が可能と思われていたときもありますが、そんなに簡単ではないというのが分かってきました。①と②について要素的な地震は予測できるのですが、東北地方太平洋沖地震のように複数の地震断層が連動するようなものについては、正確には予測できません。ですので、地震防災も予知に頼るのではなく、発災したときの対応で被害を押さえようと考え方が変わってきました。



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