2018年度 都市防災学特論

大学院・都市防災学特論      開講学期:2学期・毎週月曜日・第4講時(14:45~16:15)
C208室

講義題目 建築情報学(確率論の基礎)
責任教員 岡田成幸(工学研究院 建築都市空間デザイン部門)
担当教員 岡田成幸:okd@eng.hokudai.ac.jp
      中嶋唯貴:nakashima@eng.hokudai.ac.jp
科目種別 工学院専門科目
授業形態 ゼミ形式(受講生に担当の章を割り振り、各自指摘された各章の要点を開設し、質疑を行う。)
単位数  2単位
対象年次 MC1 ~DC3

授業の目標
工学の目的は「エネルギー資源を利用し、人間幸福を追求すること」にある。目的遂行のための方法論は、一般的には以下の手順をたどっている。
1) 現象の理解
2) 現象のモデル化
3) モデルを使ったシミュレーション
4) 最適解の導出
5) 実現のための対処方法検討
 この流れでまず問題となるのが、モデル化である。物理学等の自然科学では現象を理想化しノイズのない単純状態を想定してモデル(定理)を作り上げていく。しかし工学の場合、扱うのは理想世界ではなく現実世界である。事象は必ずある不確定性を持って発現する。事象の解釈や評価そして将来予測を支える理論は理想条件下における近似モデルを扱っているに過ぎない。現実に発現する事象は必ず理論とは乖離している。この不確定性に基づく乖離現象をモデル化することが確率論であり、技術者・工学研究者には必須の職能と言える。
 講義で扱う例題は構造系に関わるものが多いかもしれないが、確率論は計画系においても重要な概念であり、計画系学生においては、自分に関わる領域の例題を見つけてくることを推奨する。

授業計画
◇10/15 第1回:イントロダクション
配付資料:以下をクリックし、PDF資料をダウンロードできる。
(1) 情報概論

(2) 岡田・中嶋:モニタリング技術が防災の形を進化させる、AIJ名古屋大会構造PD(2012)

(3) 岡田:災害リスクの構造と工学的制御の方法、東濃地震科学研究所報告No.41(2017)

(4) 岡田:災害は技術的安全と社会的便益のトレードオフの結果である、建築大会研究懇談会(2018)

資料(1)に講義の要点をまとめておくので、復習しておいてもらいたい。
・コンテンツ1は確率論を学ぶ必要性と、そこで扱う不確定性について解説している。設問が2つ用意されている。解答例も示しておくが、自分の講義の理解度をチェックしてもらいたい。設問2については次週に解説する予定である。
・コンテンツ2では情報の意味を深く掘り下げている。時間がないため、講義での解説は省略するので配付資料を読んで自習することを勧める。情報は加工されて価値が付加される。情報工学ではその価値のレベルをDIKWヒエラルキーと呼んでいる。防災を例にDIKWについて論を興したのが資料(2)である。参考にしてもらいたい。
・コンテンツ3では、情報工学が扱う「情報」と建築工学に携わる我々が扱う「情報」には概念の違いがあることを解説している。情報を量的に扱う技術として「情報量(情報エントロピー)」という概念が生まれた。我々が抱いている情報の概念とそこから派生する意義との違いを理解するために、私はJPOPと演歌の歌詞を例題として取り上げた。両者が持つ情報量を各自で計算し、用意された設問にも解答し理解を深めてもらいたい。
 資料(3)は学部講義「地震工学」の防災の考え方(私論)に関わる要約である。講義受講生にとっては復習となるであろう。未受講生には岡田の防災哲学として読んでもらいたい。大学院の講義で直接扱うことはないが、本講義の背景知識として防災やリスクの考え方をマスターしておいてもらいたい。
 資料(4)は2018年度の建築大会の研究懇談会で議論された「人為的要因による震災の防止/軽減に向けた技術・社会のあり方について」の寄稿文である。なぜ災害がなくならないのかを人間の避けられない本質的要因(リスクの許容)に触れ、それを理解した上で技術者が目指すべきものを説いてみた。資料(3)と併せて読んでもらいたい。

◇10/22 休講:「北海道胆振東部地震 緊急フォーラム」
◇10/29 第2回:工学における確率・統計の役割
配付資料:
(1) 確率論の優位性

(2) 斎藤:健全性診断手法を用いた建物のリスクマネジメント、事例に学ぶ建築リスク入門(2007)
 今回扱う題材は第1回講義を承け、不確定性を扱う4つの立場(頻度論的立場/数学的立場/主観的立場/ゲーム論的立場)について解説する。不確定性をどのようにモデルに取り込むかは流派ができるほどに異なる。考え方の好き嫌いで何派を支持するかを選択するのもあり得るが、私は情報取得の制約条件により適宜方法論を選択するのが工学的アプローチではないかと思う。いずれにしても、どのような立場があるのかを知っておくことは重要である。
 さらに資料(2)を例に、情報として得た数値から何らかの意思決定(構造的損傷度評価)をするときに、確率論を導入した見方の重要性を理解してもらう。ある意味において情報を捨てることで判断が明解な確定論に比べ、確率論は情報をあるがままに見ようとする立場である。その結果として皮肉なことに、様々な判断基準を用意する必要が出てくる。判断基準は主観的(恣意的)と揶揄されることもあるが、情報を捨てないという立場は工学的には推奨されるべき立場ではないかと個人的には思っている。

◇11/5 第3回:確率モデルの基礎
◇11/12 海外出張につき休講
◇11/19 第4回:確率変数と確率分布
◇11/26 第5回:確率分布と形(1)
◇12/3 第6回:確率分布と形(2)
◇12/10 第7回:極値確率分布
◇12/17 第8回:観測データによる統計的推測
◇1/7 第9回:確率モデルの決定 /回帰分析・相関分析
◇1/17 第10回:構造安全性の評価
◇1/21 第11回:信頼性解析
◇1/28 第12回:リスクマネジメント
◇2/4 第13回:復習(修士論文発表会)