■積極的参加を
■3章の補足 ~建築計画における防災の考え方~
■メールでのYさんからの質問・回答
(1)積極的参加を
(2)3章の補足 ~建築計画における防災の考え方~
建築計画分野において、防災といえば1995年兵庫県南部地震以前は、火災からの避難計画のみと言っても過言ではありません。「両方向避難」とか「防災区画」といった概念は既に学部教育で学んだことと思います。
今回取り上げたテーマは、地震に対する防災計画です。わが国では今日・発表者に解説してもらったような精緻な防災指針はありません。兵庫県南部地震後、日本建築学会は総力を挙げて全研究分野が「地震」を対象として各種の取り組み・協議会を発足させました。「初めて」といっても良いのではないでしょうか。建築計画分野では、堯天神戸大学名誉教授を中心とした「神戸市公共建築復興基本計画検討委員会」が設立され、公共建物の防災上のあり方について、本格的に検討が開始されました。
その考え方のエッセンスは、カリフォルニア地震安全委員会のツールキットに沿ったものと私は理解します。以下にそのプロセス概要を示します。
1)公共建物の防災レベルの決定:災害時の公共建物の持つ役割・機能を区分
レベルⅢ:市の防災活動の中枢的機能を担う施設と位置づける
例)本庁舎、市民病院、福祉施設、区役所・消防署土木事務所等
レベルⅡ:避難所や災害時の活動を支援する機能・施設として位置づける
例)公園、学校、スポーツ施設、公民館等
レベルⅠ:一般的市民利用施設として位置づける
防災施設としてのプライオリティはレベルⅢ→Ⅰの順に低くなる。
2)被害レベルの設定:地震動強さに応じてどの程度の被害まで許容できるかを決定
被害レベルA:地震動小(無被害)・地震動中~大(軽微)・地震動超大(小破~中破)
被害レベルB:地震動小~中(軽微)・地震動大(小破)・地震動超大(中破)
被害レベルC:地震動小~中(小破)・地震動大(中破)・地震動超大(大破)
軽微=継続使用可【対処:補修程度】
小破=継続使用可【対処:補修あるいは復旧】
中破=一部使用可【対処:復旧】
大破=使用難【対処:大規模復旧あるいは解体撤去】
建物への要求は被害レベルA→Cの順に低くなる。
3)防災レベルと被害レベル検討による施設複合化の検討
災害時の施設ネットワークによる高率運用を図るため、施設の複合化を検討
そのためのワークシートを準備
4)計画条件項目と基準の設定:レベルごとに計画条件項目の基準を設定する
計画条件項目:立地条件、周辺施設との関連性、避難動線、建築材料、採光・通風、緑化計画等々について
基準については省略
きめ細かな建築計画を遂行するために参考になるものだと思います。
(3)メールでのYさんからの質問・回答
講義終了後、質問のメールが入りましたので、お答えします。本人の希望により氏名は伏せます。
Yさんからの質問1:
Y>先ほどの授業の最後で、「日本ではまだこのようなシステムはできていない」といわ
Y>れましたが、システム作成段階なのでしょうか。
Y>阪神淡路大震災後、(確かではありませんが)マスコミでこのようなことは多数言わ
Y>れていたような気がします。
Y>(例えばニュースステーションの”今日の特集”やクローズアップ現代のような系統
Y>の番組で)
Y>自治体などで判断基準や、チェックシートの作成等はあるのでしょうか?
Yさんからの質問2:
Y>また、本題からはそれますが、
Y>地震災害がおきた場合、都道府県単位・市町村単位のどちらが主体となって動くので
Y>しょうか。(地震規模によるのでしょうか?)
質問1への回答:
1995年兵庫県南部地震の被害を教訓とし、構造物耐震化の提言が日本建築学会から出されています。
1998年1月16日:建築および都市の防災性向上に関する提言 -阪神・淡路大震災に鑑みて- (日本建築学会第三次提言)
というものです。
種々の提言があるのですが、その中に【耐震メニュー(案)】というのがあります。建物を売り出すときに、その建物の耐震性能を公表しようというものです。建物は耐震等級として表され、耐震1級から5級まであります。上記の防災レベルに相当するようなものですが、主として構造的観点(架構保持)と防災設備の観点からの等級付けです。地震動強さをD・C・B・A・Sの5段階に分け、それぞれに対する被害の程度を無被害から崩壊まで定義づけています。詳しくは、誰かに報告してもらいましょう。
マスコミで取り上げられたのはこのことではないでしょうか。耐震性能を明らかにしようという点で新しい提言ですが、そのためにどのような仕様が必要かという議論はこれからの話しです。建築計画サイドからの検討はこの提言には明示的には含まれていません。
質問2への回答:
行政による防災の対象は、その管轄下にある公共施設と住民です。都道府県管轄施設は都道府県が主体となります(たとえば、庁舎とか都道府県立学校校舎、都道府県営住宅など)。住民は市町村の管轄内に入りますので、住民を守る防災行為(避難誘導・被災者支援等)は市町村が主体となります。この行為に対しては都道府県は、市町村からの支援要請に従い、支援する立場にあります。兵庫県南部地震では、被災市町村が大混乱を起こしていたため、市町村からの支援要請が実際には発せられず、それを理由に動けなかった(動かなかった)県・他市町村もありましたが、多くは支援要請なしに独自判断のもと支援に入りました。それが新たな問題を引き起こし、全国レベルでの支援システムの必要性に繋がるのですが、それは私のところで研究を進めています(渡辺千明さんがこれまでの研究成果を整理し博士論文としてまとめています)。興味のある方は、来室下さい。
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