大学院・都市防災学特論受講生
配信日:2004年5月13日
■ 震源スペクトルの重要性
■ 津波高さと浸水高
(1) 震源スペクトルの重要性
震源でどのような波が射出されるかを知ることは、防災上極めて重要なことである。
本日のテーマとなった、震源断層のパラメータから震源スペクトルをモデル化する問題は、1970年代から盛んに研究されるようになった分野である。
簡単に補足しておく。
下図はテキストに使われていた図面に朱色で加筆したものである。
スペクトルは、周波数fcにおいて、両対数グラフで6db/oct(すなわち、(周波数)の-1乗=ω-1)傾いている。両対数グラフで45゜に相当する。そして、周波数Fcにおいて、さらに12db/oct(すなわち、(周波数)の-2乗=ω-2)傾く。両対数グラフで、約60゜である。
これは縦軸が、変位スペクトル強度を示している。構造物への破壊エネルギーは、変位よりも速度との相関が高いので、これを速度スペクトル強度に変換する。速度は変位の1回微分で得られるので、速度=ω・変位で表される。すなわち、上図をωだけ、左に回転させればいいことになる。下図が得られる。
すなわち、fcとFcによって、現存する構造物の周期帯に影響するスペクトル振幅が決まってくる。
一般に、震源断層のパラメータとfcおよびFcの関係は、以下で与えられる。
fc=F(断層破壊速度Vr/断層長さL)
Fc=F(1/食い違い時間τ)
これらの式より、断層が長い地震ほど、fcは長周期側に伸び長周期構造物(たとえば、高層ビル)に大きく影響する波が射出され、断層が割れる速度が早いほど(τが小さいほど)Fcは短周期側に伸び短周期構造物に大きく影響する波が射出されることが分かる。
(2) 津波高さと浸水高
発表において、津波高さと被害の関係が表になって与えられていた。津波の権威・首藤(2002)による有名な関係表であるが、実は、津波高さよりも、浸水高の方が、被害との相関は高い。ここで津波高さと浸水高の定義について触れておく。
津波高さ:その当時の東京湾平均海面高さからの津波到達地点までの高さをいう。
浸水高:その地点での標高から津波到達地点までの高さをいう。
定義から明かであろう。いくら津波高さが高くても、そこの標高が高かったら、津波はそこへは到達しない。よって、浸水高の方が被害を論じる上では意味のある情報となる。
そして、浸水高が1mを越えたなら、木造住家はほぼ全壊する(羽鳥徳太郎の研究を参照。また、岡田も北海道南西沖地震調査で同様の値を求めている)。逆に言うならば、1mを越えなければ、津波が来ても家は崩壊しない。2階に逃げれば、少なくとも波でさらわれることはない。浸水高がどのくらいになるのか。これがリアルタイム(あるいは事前)情報として得られれば、津波対策はかなり容易になるであろう。
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