地震災害は以下の点において他の災害にはない特徴を持っています。
被災対象の多さ:多様性(世の中に存在するもの全てが、ある意味で同時的に被災対象となります)
間接被害の誘発:複合性(人的被害・機能被害・経済被害など視認性のない被害が時間遅れで発生します)
影響の長期化:時間変動性(場合によっては、数年から数10年規模で影響が長期化します)
他地域への影響連鎖:広域性(直接被害を受けなかった地域にも間接的に被害が影響します)
それらの現象・特徴をありのままに理解していくことが、地震防災の基本であると思っています。私の研究テーマの出発点はそこにあります。
現象をありのままに見つめ、理解していくこと。それは研究領域を必然的に拡大させます。
従って、私の研究テーマは【地震防災】をキーワードとした幅の広さを一つの特長としています。
私の種々の研究テーマを整理する二つの軸があります。
1. 現象発生の時間軸
2. 対策主導のレベル軸
【1-1】現象発生の時間軸
まず、現象発生の時間軸について説明します。現象とは地震という自然現象・震災という災害現象はもちろん、それらへの対策という行為も現象の中に含めて考えます。
これらの現象を「事前:地震発生前」「最中:地震で揺れている最中」「事後:揺れが収まった後」という三つの時間フェーズを基とする時間軸で捉えると、以下のように記述できるでしょう。
(事前の現象)
地震発生前に考えておかねばならない対策で事前対策が対象となります。対策は大きく以下の2種類に分かれます。
対策 ■予防型対策Mitigation。地震が発生しても災害に至らせないための対策行為をいい、それに関する研究テーマがここに位置づけられます。
対策 ■発災対応型対策Preparedness。災害が発生した場合、それ以上災害を拡大させないために、事前に講じておくべき対策行為をいい、それに関
する研究テーマがここに位置づけられます。
(最中の現象)
直接的災害発生が発生します。地震により災害が発生するには色々な要因が絡んできます。地震災害は以下のように記述できます。
災害Risk=地震動入力Hazard×被災対象の地震強さVulnerability×分布Population
対策とはこれらの右辺の要因を取り去ること、あるいはなくせないまでも影響を小さくすることです。これが対策のコンセプトです。そのためのテーマが以下に位置づけられます。
対策 ■地震動入力に関する対策。災害を引き起こす直接的原因(誘因)となる地震動を理解する研究テーマです。
このテーマはさらに震源問題・距離減衰問題・地盤増幅問題などに細分されます。
対策 ■被災対象の地震強さに関する対策。地震動で揺らされ被害を受ける対象は、建築を始めとする構造物に限らずそこに居住する人間・生活機能
・都市システム・社会システムなど、目に見えるものから見えないものまで含めこの世界に存在する全てです。それらが地震に対してどの程度
の耐震性あるいは脆弱性を有しているのか、それを理解することは災害を引き起こす間接的原因(素因)を知ることになり、有力な地震防災対
策に繋がります。
対策 ■分布に関する対策。都市のような広がりを防災の対象に考えた場合、それぞれの被災対象がどこにどのように分布しているかが、地域あるい
は都市の耐震性・脆弱性を大きく左右します。これも素因の一つです。
(事後の現象)
間接的災害が発生します。地震災害の大きな特徴の一つです。どのような災害がどの程度の規模でいつどこに発生するのか。その現象の理解と記述がここに位置づけられる主題です。
対策 ■発災対応Response。事後の緊急的対応の良し悪しが、その後の被害拡大防止に極めて有効です。
それに関する研究テーマがここに位置づけられます。
対策 ■復旧対策Rehabilitation。地震が発生する前の状態に被災対象を戻すことを復旧と言います。それに関する研究テーマです。
対策 ■復興Restoration。地震前の状態よりもより良い状態(地震に強い状態・環境)にすることを復興と言います。
これは事前の予防型対策に繋がるものです。
このように、事前→最中→事後→事前・・・という時間の流れの中で、様々な現象が発生し対策が考えられます。私の研究テーマは、この時間軸上に並べることができます。
【1-2】対策主導レベル
つぎに、もう一つの軸、対策主導レベルについて説明します。
対策を行うのは行政だけとは限りません。「私」のレベルから「公」のレベルまで、それぞれ守る対象もまた守る方法も異なります。それぞれのレベルで、先に述べた時間軸{事前・最中・事後}の防災を考えていく必要があります。「私」から「公」までの防災単位とそれらの防災の主役(対策主導者)は、以下のようにレベル化されるでしょう。
(防災単位:個別の防災)
- 個人。人を単位とした防災は人的問題と言われます。地震で死なない・ケガをしないための対策はどうあるべきかを考える研究です。
- 世帯主。家族を単位とした我が家の防災は世帯主が中心となり、家族で考えねばならない問題です。
- 建物管理者。アパート・マンションなど人が集まって住むことを集住と言います。また、学校や会社など集団で社会生活を営む空間があります。
さらに、地下街・公共建物など人が集まる空間があります。その空間の安全性を担保するための研究テーマです。 - 企業・民間。災害時の企業・民間・ボランティア団体などの果たす役割は防災上極めて大きいものがあります。
個別の組織の防災に関わるテーマです。
(防災単位:地区の防災)
- 町内会。地域コミュニティや自主防災組織という単位での防災テーマです。
- 街区。街区を単位とした防災です。防災まちづくりとも関連します。
(防災単位:地域の防災)
- 市町村。地区を広げて、市町村行政界を一単位とした防災です。都市計画・防災行政が主テーマとなってきます。
- 都道府県。都道府県が主体となる防災がテーマです。
(防災単位:国の防災)
- 国内。マクロ的防災計画や安全指向の意識啓発など国内防災問題がテーマです。
- 海外。海外調査や国際支援の問題です。
このように、「私」から「公」にいたるまで、それぞれの防災単位で考えるべき対策内容は異なっており、私の研究テーマは、この対策主導レベル軸上にも並べることができます。
【2】私の研究テーマ概観
以上の二つの軸上で私の研究テーマを概観すると以下のようになります。
時間 | ||||
---|---|---|---|---|
事前対策 | 最中対策 | 事後対策 | ||
主導レベル | 個別 | 室内危険度判定・改善手法 | 建物内死者発生メカニズム解明 被害関数の構成 |
建物被害判定法 崩壊建物内救出救命法 |
地区 | 街区パターンにみる防災手法 防災まちづくりに関わる研究 |
被害連関モデル構築 | 被害連鎖モデル構築 | |
地域 | 都市防災計画策定指針 地震動入力評価法 |
防災情報収集の加速要因 | 防災行政の応急対応指針 | |
国 | 強震観測装置の開発 | リアルタイム地震動・被害評価システム | 最適後方支援戦略問題 トルコにおける被害調査事例 |
関連研究テーマを1)災害別 2)被災対象別 3)対策の類型別 4)方法論・目的別の4項目で分類するためのコード表記を十進分類で試みてみました。
【3】研究テーマと論文の関係
それぞれの研究テーマと関連する論文との関係を示します(以下、未定稿です。時間を見つけて埋めていくつもりですが・・・時間が欲しい)。
* 室内危険度判定・改善手法
室内の地震時の負傷危険度を、家具転倒危険性と揺れている最中の人間行動能力から算定する手法です。住人の行動能力は年齢・性別・時間帯・ライフスタイル・地震動の強さによって異なります。これらを加味して1m2ごとの負傷危険度を算定し、住み方改善の指針を提示するための研究です。
- 岡田成幸:地震に伴う室内環境変容と人的被害の発生危険性との関係 -1987年千葉県東方沖地震の高層建物の震度調査にもとづく-,
日本建築学会1989年大会 (熊本), 1989. - Okada S.:Indoor-zoning map on dwelling space safety during an earthquake,
Proceedings of the 10th World Conference on
Earthquake Engineering, 10, 6037-6042, 1992. - 岡田成幸:地震時の室内変容に伴う人的被害危険度評価に関する研究 -その1 居住空間危険度マイクロゾーニングの提案-,
日本建築学会構造系論文報告集, 454, 39-49, 1993. - 岡田成幸:地震時の室内変容に伴う人的被害危険度評価に関する研究 -その2 1993年釧路沖地震にみる揺れている最中の災害回避行動-,
日本建築学会構造系論文集, 481, 27-36, 1996. - 岡田成幸:往診型居室内地震危険度ゾーニング評価システムの開発, 平成6~8年度科学研究費補助金基盤研究(B)(2)研究成果報告書, 1-95, 1997.
- 出張小百合・岡田成幸:地震時における室内負傷危険度診断アルゴリズムの提案 -室内ゾーニング法と避難路ネットワーク法-,
日本建築学会大会梗概集, E-1, 1025-1026, 1999. - 湊寛子・岡田成幸:地震時の室内安全基準に関する検討 ~平面計画からの提案~, 日本建築学会大会梗概集, E-1, 1027-1028, 1999.
*建物内死者発生メカニズム解明
地震で建物が壊れて人が死ぬ、こんな悲惨な出来事をなくすために地震防災はあるのだと思います。しかし、壊れた建物の中で何が起こっているのか、どのようなことで死者が発生してしまうのか、そのメカニズムの解明は不思議なことに研究されていません。そこの理解なくして、真の対策はあり得ないと思っています。まだ研究の緒に就いたばかりですが、一番ホットな話題です。
- 岡田成幸:地震時の建物内生存空間被災度の評価 1.考え方, 日本建築学会北海道支部研究報告集, 65, 81-84, 1992.
- 村上公一・岡田成幸:地震時の建物内生存空間被災度の評価 2.1985年メキシコ地震を例に, 日本建築学会北海道支部研究報告集, 65, 85-88, 1992.
- Okada S.:Description of indoor space damage degree of building in earthquake, 11th World Conference on Earthquake Engineering, 1/4 (CD-ROM) 1760, 1996.(指名論文)
- 髙井伸雄・岡田成幸:淡路島北淡町における死者発生の事例調査, 東濃地震科学研究所報告, 3, 13-16, 2000.
- 黒田誠宏・湊寛子・髙井伸雄・岡田成幸:1995年兵庫県南部地震における建物被害と人的被害の関係 -航空写真立体視手法による建物被害判定の利用-. 東濃地震科学研究所報告, 3, 17-18, 2000.
- 岡田成幸:建物内死者発生モデル, 東濃地震科学研究所報告, 3, 105-108, 2000.
- 岡田成幸・髙井伸雄:トルコ西部地震における建物被害と人的被害, 東濃地震科学研究所報告, 3, 211-214, 2000.
* 被害関数の構成
* 建物被害判定法
* 崩壊建物内救出救命法
* 街区パターンにみる防災手法
* 防災まちづくりに関わる研究
* 被害連関モデル構築
* 被害連鎖モデル構築
* 都市防災計画策定指針
* 地震動入力評価法
* 防災情報収集の加速要因
* 防災行政の応急対応指針
* 強震観測装置の開発
* リアルタイム地震動・被害評価システム
* 最適後方支援戦略問題
* トルコにおける地震調査事例
⇧先頭へ
⇦BACK